ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No3
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日本結晶学会誌Vol56No3
特集:鉱物学と結晶学日本結晶学会誌56,150-157(2014)温度をパラメータとした鉱物結晶学―原子変位挙動の解明―山口大学大学院理工学研究科中塚晃彦Akihiko NAKATSUKA: Mineralogical Crystallography as a Function of Temperature?Elucidation of Atomic Displacement Behavior?Application of the Debye model to the temperature dependence of atomic mean squaredisplacements determined by X-ray diffraction provides individual knowledge of dynamic and staticnatures of atomic displacements, together with characteristic values of crystals such as Debyetemperature and one particle potential coefficients. The anharmonic refinement, incorporating thehigher-order terms into the Debye-Waller factor, is a useful technique to detect the deformationof the probability density functions from ellipsoidal distribution due to anharmonic thermalvibrations and static disorders of atoms. Here we review our recent research that applied theseapproaches to Mg 3 Al 2 Si 3 O 12 garnet, an important constituent in the Earth’s interior. The researchhas proved the presence of the Mg static disorder, which has long been a controversial issue,and has proposed the possibility of anharmonic thermal vibrations of atoms at high temperature.1.はじめに固体地球で生じている諸現象は,その構成物質である鉱物結晶のマクロな性質に起因していることが多い.鉱物結晶学の大きな目的の1つは,そのような鉱物結晶のマクロな性質の本質を原子レベルで明らかにし,固体地球のダイナミックスの解明を目指すことにある.特に高温・高圧状態にある地球内部に関しては,圧力と同様,温度をパラメータとした鉱物結晶の構造研究が重要な役割を担っている.地球内部の物質構成・物性・ダイナミックスを議論するうえでも重要な高温構造相転移・イオン拡散・熱膨張など温度をパラメータとした結晶のマクロな現象は,原子の熱振動と深く関係している.例えばイオン導電体の伝導機構に見られるように, 1)熱振動による原子の動的な挙動を明らかにすることは,結晶のマクロな現象の起因力・前駆現象を実験的に捕え,そのメカニズムを原子レベルでのミクロな視点から解明するために重要である.また,原子の熱振動は周囲の原子からの相互作用に影響され,それゆえ,原子間相互作用の大きさを知る手掛かりとなり,構造安定性に関する重要な知見を与える.一方,異種原子が結晶学的な等価席を占有している固溶体や原子がある特異な配位環境に置かれた結晶などでは,規則格子点から幾何学的にずれた位置で原子が統計的に無秩序分布した(配置が乱れた)状態,いわゆる,原子の静的な変位が生じる場合がある.このような原子の静的な挙動も原子間の相互作用の結果として生じ,構造安定性に関する重要な情報を与えうる.これら原子の動的および静的な変位は結晶の三次元的周期性からの乱れ(不規則性)を表しており,時間的・空間的な平均構造情報を与えるX線構造解析において,両者の情報はDebye-Waller因子に包括されてしまう.Debye-Waller因子への両者の寄与が分離できれば,原子の空間分布と熱振動に関するより詳細な知見を得ることができる.温度をパラメータとした単結晶X線構造解析は,そのような結晶の不規則性を明らかにするための有効な手法の1つである.本稿では,温度をパラメータとした単結晶X線構造解析によって得たDebye-Waller因子からどのような情報が読み取れるかについて解説し,その方法論に基づいて行った地球内部物質として重要なMg 3Al 2Si 3O 12ガーネットの原子変位挙動に関する研究2)を紹介する.2.X線回折の温度変化実験から何がわかるか2.1 Debye-Waller因子原子の熱振動によって,各瞬間において結晶の周期性は乱れ,回折強度は減衰する.この効果は高温ほど大きくなり,原子散乱因子にDebye-Waller因子を掛けることによって補正される. Gram-Charlier展開したDebye-Waller因子T(h)は次式で与えられる.iiTh ( )= + ( ) 3ijkhhhi j k + ( ) 4? 2π2π??1γδijklhhh i j khl+ L?? 3! 4!?exp( ?βijhhi j )(1)150日本結晶学会誌第56巻第3号(2014)