ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

日本結晶学会誌56,78-84(2014)特集:物性研究における結晶学-物性のダイナミズムと結晶構造-機能性バナジウム酸化物およびポリアニオン系の結晶構造,電子状態ならびにスピンダイナミクス筑波大学数理物質系物理学域小野田雅重Masashige ONODA: Crystal Structures, Electronic Properties, and Spin Dynamics ofthe Functional Vanadium Oxide and Polyanion SystemsVarious transition-metal compound systems with intriguing characteristics have beeninvestigated for the purpose of the comprehensive understanding of the crystal structures andthe physical properties from macroscopic and microscopic viewpoints. For the vanadiumoxides and polyanions, specifically Cu x V 4 O 11 , Li x V 3(P 2 O 7)3(PO 4)2 , Li x V 2(PO 4)3 , Li x VOPO 4 ,and Li x VFPO 4 that may be designed to serve as high-performance energy storage or thermoelectricdevice, the crystal structures, electronic properties, and spin dynamics are describedon the basis of results of X-ray four-circle diffraction, electrical resistivity, thermoelectricpower, magnetization, nuclear magnetic resonance, and electron paramagnetic resonance.1.はじめに基礎から応用・実用に至るまで広範囲に研究が行われている遷移金属化合物において,筆者のグループは,主として機能性物質系,相関電子系ならびに量子スピン系を対象に,結晶構造と巨視的・微視的物性の包括的理解を目指している.本稿では,その中から二次電池正極あるいは熱電変換への応用が期待されるバナジウム化合物に限定して,その結晶構造と物性をまとめる.バナジウムなどを含む二次電池関連の酸化物として,これまでに低次元構造型A xV 2O 5(A=Li, Naなど),A 1+xV 3O 8, V 6O 13, Ag 2V 4O 11,複合結晶型Cu xV 4O 11,三角格子型A xTO 2(T=V, Co, Ni)などの結晶構造および電子の相関・量子性を追究するとともに, Cu xV 4O 11, H xCoO 2,CoO 2などの物質を創成してきた. 1),2)これらの電池性能の一般的な特徴として,バナジウム系は高容量性をもつものの出力電位が低いのに対して,その他の遷移金属酸化物は逆の関係を与えることが挙げられる.バナジウム酸化物における出力電位の問題は, XO 4四面体(X=P, Asなど)を結晶内に導入することによって解決される.これは, X?O間の強い共有結合により, V?O間結合のイオン性が増加し, Li + /Li酸化還元エネルギー準位とバナジウムのそれとの差が大きくなるためである.さらにXO 4四面体の導入により, Liの脱離・挿入に対する結晶構造の歪が抑制される特長がある.一方,バナジウムのイオン性が高くなったことにより,その価電子のホッピング性が低下するので,系の電子伝導性は低下する.このように, XO 4四面体の導入により遷移金属のイオン性が高くなった系をポリアニオン系と呼ぶ.バナジウムイオンは5価(d 0)から2価(d 3)までの状態をとるので,正極活物質として安定な多電子反応が期待できる.バナジウムポリアニオン系において,母物質の充電時に1電子反応を超えた物質はLi xV 2(PO 4)3系(x ? 3)3)のみであったが,筆者のグループは最近,新型の多電子反応正極活物質Li xV 3(P 2O 7)3(PO 4)2系(x ?~10)を発明した. 4) Li濃度域がx ? 9の系は,同時期に中国でも開発された. 5)本稿では, X線4軸回折,電気抵抗率,熱電能,帯磁率,核磁気共鳴(NMR),電子スピン共鳴(EPR)の結果に基づいて, 2節でバナジウム酸化物系からCu xV 4O 11, 1),2) 3節でポリアニオン系からLi xV 3(P 2O 7)3(PO 4)2, 4) Li xV 2(PO 4)3, 6)Li xVOPO 7) 4などの結晶構造,電子状態ならびにスピンダイナミクスを紹介する. 4節ではそれらの機能性について整理し, 5節で多角的研究の成果をまとめる.表1は,それらの単結晶データおよび負極をリチウム金属とした二次電池特性である.2.複合結晶型バナジウム酸化物複合結晶とは,基本周期あるいは対称性が異なる複数の部分構造が互いに貫入した結晶を指す.複数の部分構造の周期が簡単な整数比で表されなければ互いに不整合であり,構造全体は三次元の周期では記述できない.各部分構造の基本構造は三次元空間群の対称性をもつが,現実の構造では部分構造間の相互作用のために位置変調が生じるのが一般的である.78日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)