ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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概要

日本結晶学会誌Vol56No2

クリスタリット導電性原子間力顕微鏡(CAFM)Conductive Atomic Force Microscope:CAFM原子間力顕微鏡において導電性をもった探針を使用し,背面電極を付加した試料の表面を,バイアス電圧を印加しながら接触モード(探針と試料表面が接触した状態)で走査する.この際の試料表面と探針の間に流れる電流を測定することにより,導電性の二次元マッピングを行う.これにより,試料表面のナノメートルスケールの局所的な導電性分布の情報を得ることができる. CAMFの探針には,導電性をもたせるため,金コーティングをされた物などが用いられる.また二端子電気抵抗測定であるため,接触抵抗が大きい場合には注意する必要がある.(九州工業大学大学院工学研究院物質工学研究系堀部陽一)シシケバブShish-Kebab結晶性高分子を流動場下で結晶化させた際に発現する結晶集合構造の一種である.その風変りな名称は,形態が羊の肉を串に刺して焼いたトルコ料理に似ていることに由来している.紐のように長い高分子が伸びた形態をとる伸びきり鎖結晶が串(シシ)に相当し,肉(ケバブ)に相当するのはシシの表面に成長した折りたたみ鎖結晶である.折りたたみ鎖結晶とは,高分子鎖がその長さよりもはるかに薄い平板状の結晶に折りたたまれてパッキングされた結晶形態で,高分子に一般的に観察される.シシケバブの発見に関して, 1965年にオランダのPenningsがポリエチレン溶液の流動結晶化物として発表した論文が有名である.しかし,それよりも2年前の1963年に日本の三橋がすでに報告していることを日本人としては記憶しておきたい.その後の研究により,ポリエチレンだけでなく多くの結晶性高分子の流動結晶化構造として一般的に観察されている.また,溶液だけでなく,融液にも発現することが明らかになっている.さらには,カーボンナノチューブの表面に高分子の折りたたみ鎖結晶をケバブとして成長させた構造も,形態類似性からシシケバブと呼ぶこともある.(東洋紡㈱村瀬浩貴)光差フーリエマップPhoto-Difference Fourier Map励起光の照射によって結晶内に生成される微量成分の構造に起因した電子密度を観察するために, Coppensら1)によって考案された差電子密度マップ.描画にはF o(ON)を光照射下, F o(OFF)を光非照射下の実測構造因子として( o( ON) o( OFF)) ? ?{ ( )}?ρ( r)= ( 1 V)ΣF ? F exp 2πir Kの関係式が用いられる.?ρ(r)は実空間のベクトルrの位置での差電子密度, Vは単位格子の体積, Kは散乱ベクトルを表す. F o(ON)とF o(OFF)の間の系統誤差はマップの精度に影響するため,系統誤差を最小化する回折データ収集2)およびデータ処理3)が必要になる.1)M. D. Carducci, M. R. Pressprich and P. Coppens: J. Am. Chem.Soc. 119, 2669 (1997).2)C. D. Kim, S. Pillet, G. Wu, W. K. Fullagar and P. Coppens:Acta Crystallogr. Sect. A 58, 133 (2002).3)Y. Ozawa, M. R. Pressprich and P. Coppens: J. Appl. Cryst. 31,128 (1998).(東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻星野学)結合電子Bonding Electron原子が有する電子のうち,ほかの原子と結合を形成するために使われる電子のこと.原子の外殻電子が結合電子として使われる. X線結晶構造解析では,実測構造因子(Fo)と原子の電子分布が球対称であると仮定して計算される構造因子(Fc)の差分を係数に用いた差電子密度マップを描画することで観察可能であり,結合の形状や性質を知るうえで重要な知見を得ることができる(例えば参考文献1)).1)A. Hartman and F. L. Hirshfeld: Acta Crystallogr. 20, 80 (1966).(東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻星野学)フーグスティーン型塩基対Hoogsteen Base Pairワトソンとクリックにより,グアニン(G)はシトシン(C)と,アデニン(A)はチミン(T)と塩基対を形成して,DNAは二重らせん構造をとることが発見された.通常のG:CおよびA:T塩基対では,それぞれの塩基がグリコシド結合についてantiコンフォメーションをとる.この塩基対の様式をワトソン-クリック型と呼ぶ.一方,ワトソン-クリック型と比較して,プリン塩基(GもしくはA)がグリコシド結合に対して約180°回転したsynコンフォメーションでも塩基対を形成しうることがフーグスティーンにより報告された.この様式をフーグスティーン型と呼ぶ.フーグスティーン型塩基対は, DNA配列に依存するが低頻度で一過的に形成されることが報告されている.本稿にある8-oxoGは,ワトソン-クリック型でCと,フーグスティーン型でAと塩基対を形成し,その効率がほぼ同程度であることから,突然変異の原因となる.(熊本大学大学院生命科学研究部中村照也)ヌクレオチドプールNucleotide Poolデオキシリボヌクレオチドおよびリボヌクレオチドは,それぞれDNA, RNA合成の際の基質となる.さらに,リボヌクレオチドの中でもATPはエネルギー代謝に, GTPはシグナル伝達に利用されるなど,ヌクレオチドはさまざま142日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)