ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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概要

日本結晶学会誌Vol56No2

クリスタリット横滑り螺旋磁気構造Cycloidal Spiral Spin StructureポリアニオンPolyanionポリアニオンは,カチオンおよびいくつかの単純アニオンからなる原子が強く結合したグループを表し,全体とし2て負の電荷をもつ.例として,カーボネートCO ? 3 ,シリケ4ートSiO ? 24などがあり, CO ? 3では, 3個のO 2?アニオンがC 4+ 4を平面三角形的に囲み, SiO ? 4では, 4個のO 2?がSi 4+を四面体的に囲む. 1990年代後半に,遷移金属とポリアnニオンXO ? 4(X=P, Si, Sなど)によって形成された三次元骨格が,リチウム二次電池正極活物質として非常に有効であることが指摘され,それらの研究が活発に行われるようになった.結晶内にポリアニオンが存在すると正極活物質の分子量は増加するので理論的電気容量が低くなり,また電子伝導性は低下する傾向を示すが,一方で,二次電池の高い安全性,長寿命化,あるいは高いイオン拡散性を導き,さらにX原子の高い電気陰性度は電池の高電位特性を与えるなどの大きな利点がある.(筑波大学数理物質系物理学域小野田雅重)オーバック過程Orbach Processオールバッハ過程とも言う.スピン格子緩和の過程の1つで,直接過程,ラマン過程とはまったく異なる機構である.直接過程は,磁気双極子相互作用などを媒介とする緩和のことで,スピンが反転し, 1つのフォノンを放出する過程を指す.またラマン過程は, 1つのフォノンがスピンと相互作用し,スピンを反転させると同時にフォノンが変化する過程である.一方,オーバック過程は,エネルギーE 1, E 2(E 1<E 2)の準位間にEPRを行ったとき, E 2からE 1に緩和する際に, E 2より上にあるE 3(E 3=E 1+?)の準位を経て緩和する過程を指し,主として希土類塩や鉄族イオンで重要な過程である.この場合のスピン格子緩和率はν0exp(??/T),ν0∝? 3の形をもつ.ここで,指数因子は励起状態における系を見つける相対的確率であり,ν0は励起状態の寿命によって決定される.(筑波大学数理物質系物理学域小野田雅重)日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)磁気モーメントが非共線的に配列し長周期を有する螺旋磁気構造において,磁気モーメントが伝播方向に平行な面内で回転する場合を特に横滑り螺旋磁気構造(CycloidalSpiral Spin Structure)と呼ぶ.一般に螺旋回転面は局所的な磁気異方性によって決まるので,伝播方向に垂直に磁化困難軸をもつ場合に実現する.螺旋回転面と伝播方向に垂直な面に対する鏡面対称性が破れていて極性を有するため,格子や電荷と結合することで強誘電性を誘起し得る.(東京大学大学院新領域創成科学研究科佐賀山基)スピンカレントモデルSpin Current Model桂,永長,バラツキーは,スピン軌道相互作用が働く2つの遷移金属イオンとその間の酸素イオンからなるクラスター模型において,遷移金属イオンのスピンが非平行に配置された場合に,局所的な電気分極が誘起されることを理論的に示した.これはスピン成分の交換関係から生じる超流動スピンカレントが存在し電気分極をもたらすと解釈され,スピンカレントモデルと呼ばれる.局所電気分極p ijは( )p = Ae×S×Sij ij i jと表すことができ,ここで, e ijは遷移金属イオンサイトiとjを結ぶ方向の単位ベクトル, S i, S jはそれぞれのサイトのスピンを表す(本文参照). Aはスピン軌道相互作用と交換相互作用に依存した係数であり,電子状態によって異なる.このモデルは横滑り螺旋磁気構造においてその電気分極が強的に整列して強誘電性が発現することを予言し,TbMnO 3やMnWO 4をはじめとする多数のマルチフェロイック物質において実証された.(東京大学大学院新領域創成科学研究科佐賀山基)トポロジカル欠陥Topological Defectトポロジカル欠陥は,域内で定義された秩序度が緩やかに変化する遠方の領域と,同一の秩序度が定義できないコア領域(考えている秩序により,点状であったり線状であったりする)により特徴付けられる.このコアの周りを閉じた回路で1周するごとに,ある配向秩序(スピンや液晶分子の方位)が2πの整数分だけ変化する.この整数を巻き数(Winding number)と呼び,トポロジカル欠陥を特徴付ける重要な数である.さまざまなトポロジカル欠陥が存在し,ネマティック液晶における転傾(回位:disclination)や,結晶における転位(dislocation),超伝導における磁束量子渦などがよく知られている.(九州工業大学大学院工学研究院物質工学研究系堀部陽一)141