ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

北野健図4RQCドメインのDNA結合様式はこれまでのwinged-helixとまったく違う. 1)(DNA-interaction mode of RQCdomain is distinct from all known examples of the winged-helix proteins.)(A)WRN RQC-DNA複合体.認識ヘリックスに相当する部分を水色,β-wingを緑色で示した.(B)転写因子ETSのwinged-helixドメイン(PDBID:1PUE).(C)転写因子RFX1のwinged-helix(1DP7).(D)修復タンパク質AGTのwinged-helix(1T38).編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.の活性部位に,配列特異的なDNA結合モチーフであるwinged-helix構造が含まれているのは,研究者らを悩ませる矛盾であった.今回,複合体の構造が得られたことで,初めてその謎が解明された. RQCドメインはwinged-helix構造をとっているものの,認識ヘリックスを除外した新しい作用面を用いることで,塩基の部分とは水素結合を形成することなく,配列無関係なDNA結合を実現していたのである.またRQCドメインの結合様式を見ると,突き出したβ-wingが立体障害を起こすため,二重らせんにはその末端部分への結合のみ可能であることがわかる.実際,全長のWRNとBLMはDNAにランダムに結合することはなく,二本鎖と一本鎖の分岐点,すなわち巻き戻しの開始点を正しく認識して結合することが知られている.この高い構造特異性は,後述する解きほぐしのサイトを認識するのに重要である.このようにRecQファミリーヘリカーゼの機能に必要とされる,分岐点構造の認識(recognition),結合(binding),そして巻き戻し(unwinding)の仕組みは,実はすべて小さなRQCドメインに詰まっていたのである.3.HRDCドメインの構造と機能RecQファミリーのRQCドメインがヘリカーゼ反応に直接関与しているのと対照的に, C末側に続くHRDCドメインの機能は,まだよくわかっていない.これまでは同ドメインも, DNA結合モチーフの1つと考えられてきた.しかし筆者らが構造決定したWRNHRDCドメイン2)とBLM HRDCドメイン4)の立体構造(図2B, D)を見比べてみると, DNAリン酸基と相互作用できるアミノ酸(ドメイン表面に露出した塩基性側鎖)が,まったく保存されていないことが判明した. BLM HRDCドメインでは,逆に多くの酸性アミノ酸が表面に露出しており(ドメインの等電点も5.1と低い), DNAとむしろ反発し合うのではと考えられた.これらの知見を裏付けるように,精製したWRN HRDCドメインとBLM HRDCドメインは,いずれも溶液中でDNAに結合しなかった. 2),4)4.特殊なDNA構造の解きほぐし4.1 BLMとダブルホリデイジャンクションそれでは立体構造を基にして, WRNとBLMがヒトの健康を守る仕組みについて考えてみよう.私達の細胞のゲノムは,放射線や活性酸素が引き起こすさまざまなDNA損傷を受けている.なかでも複製時に生じやすいDNA二本鎖切断(図5Aの1)は,二重らせんが途中で切れてしまうため,細胞にとって最も重篤なゲノム損傷と言われている.この二本鎖切断は,通常はもう片方の姉妹染色体を鋳型に使うことで,相同組換え修復によってつなぎ合わせられる.しかし厄介なのが,このとき必然的に生じる“ダブルホリデイジャンクション”(2)という,二重らせんの絡まりである.この組換え中間体は名前のとおり,十字型のホリデイジャンクションが2つ並んだ構造をとっていて,ほどかずに切れてしまうと(3’),組換え異常の蓄積,ひいては細胞のガン化を誘発することが知られている.私達の細胞で,このダブルホリデイジャンクションの解きほぐし(dissolution;2→3の反応)を担っているのが, BLMと,トポイソメラーゼIIIαのペアである. 6)この解きほぐし反応では, BLMがまず2つのホリデイジャンクションに結合して,互いの分岐点を近付ける向きに素早く移動させていく. 2つが融合するまで近付いたら,トポイソメラーゼIIIαがBLMと協調的に働いて,脱カテナン化(decatenation)を行うことで2本の二重らせんを分離させる(3).図5Bに, BLMとホリデイジャンクションの複合体モデル3)を示した.これはダブルホリデイジャンクションの片方に相当するが,それぞれの分岐点移動は2回軸で関係づけられる対称な反応であるため, 1つのホリデイジャンクションに対して2分子のBLMが必要と考えられる.本136日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)