ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

ページ
65/86

このページは 日本結晶学会誌Vol56No2 の電子ブックに掲載されている65ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No2

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No2

ヒトRecQヘリカーゼWRNとBLMの結晶構造解析図3結晶中に捉えられたヘリカーゼ反応. 1)(DNA-unwinding event captured in the crystal structure.)電子密度マップ(composite omit map)をタンパク質は青色, DNAは赤色で示した.末端のワトソン・クリック塩基対A 1-T 14’がβ-wingによって巻き戻されている.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.ことに, 2分子のWRN RQCドメインが二重らせんの両末端に結合して,ワトソン・クリック塩基対を1塩基ずつほどいているのが確認できた.つまりほかのドメインがすべて切り落としてあるにもかかわらず, WRNによるDNA巻き戻しの反応が,結晶内で再現されていたわけである.これほど小さなドメインが,単独で, ATP加水分解のエネルギー供給もなしに,一塩基とはいえDNAをほどくのは予想外の結果であった.2.2 RQCドメインによるDNA巻き戻しの仕組み図3に, DNA巻き戻し部位の拡大図を示した.立体構造の仕組みを詳しく調べると, RQCドメインの端から突き出したヘアピン構造(winged-helixドメインでβ-wingとよばれる二次構造)が,“DNA鎖分離ヘアピン”として,マイナーグルーブの隙間から二重らせんに割り込むように結合することで,塩基対の引きはがしを巧妙に実現していることがわかった.なかでもβ-wingの先端にあるPhe1037とMet1038の疎水性側鎖が,新たに露出した2番目の塩基対G 13’-C 2にそれぞれ疎水性スタッキングすることで,巻き戻し構造の安定化に働いていた.また同じくβ-wing上のTyr1034が,巻き戻しによってフリップアウトした5’-側の塩基A 1に疎水性スタッキングすることで,3’-側の塩基T 14’(ディスオーダーしていた)と再アニーリングできない位置に追いやっていた.β-wingがこうしてDNAの末端と疎水性相互作用を形成している一方で,二重らせんのリン酸骨格への結合は,α2-α3ループという部分によって担われていた.特にα2-α3ループ上のArg993が,β-wingと反対側のメジャーグルーブから側鎖を伸ばして,巻き戻し点であるA 1とC 2のあいだのリン酸基と強いイオン性水素結合を形成して日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)いた.実際, Arg993をアラニンに変異させると, WRNRQCドメインのDNA結合能は1/20にまで落ちた. 1)本結晶構造で興味深いのは, WRN RQCドメインのβ-wingが,まるで指先にもった外科用メスのような格好で,ドメインの端から細長く突き出している点である. BLMRQCドメインの立体構造(図2C)にも,同じく伸びたβ-wingが存在する.後述するようにWRNとBLMは,通常のヘリカーゼでは近づくことのできないDNAのわずかな隙間からでも巻き戻しを開始できるが,その活性の秘密は,このβ-wingの尖ったかたちにあったと考えられる.RecQファミリーヘリカーゼは,β-wingをDNAの間に差し込んだまま,二重らせんに沿って回転していくことで,二本鎖を一本鎖にほどくと考えられる.2.3 RQCドメインは亜種winged-helix図4にWRN RQCドメイン(A)と,一般的なwinged-helixドメイン(B-D)のDNA結合様式の違いを示した. Wingedhelixドメインは,転写因子などのタンパク質に見られるDNA結合モチーフの1つで, helix-turn-helixスーパーファミリーに分類される. 5)認識ヘリックス(recognition helix)とよばれる1本のαヘリックスを二重らせんの溝にはめ込んで,決まった配列の塩基対とのみ水素結合を形成することで,高い配列特異性を実現している.このときβ-wingも, DNAのほかの部位との相互作用に用いられる.一方でRQCドメインの場合は,同じwinged-helix構造をとっているにもかかわらず,認識ヘリックスがDNAから5 A以上も離れた場所に位置していて,結合に関与していないことが明らかとなった.一般にヘリカーゼはDNAを,塩基配列とは無関係にほどかなければならない.にもかかわらずRecQファミリー135