ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

日本結晶学会誌56,133-138(2014)最近の研究からヒトRecQヘリカーゼWRNとBLMの結晶構造解析奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科北野健Ken KITANO: Crystallographic Studies of Human RecQ Helicases WRN and BLMThe RecQ family of DNA helicases play a key role in protecting the genome againstdeleterious changes. In humans, mutations in the members WRN(Werner syndrome protein)and BLM(Bloom syndrome protein)respectively lead to rare genetic diseases associated withaccelerated aging and cancer predisposition. Recently we determined the 3D structures ofhuman WRN and BLM including a crystal structure of the RecQ C-terminal(RQC)domainbound to a DNA duplex, the first structure of the RecQ-DNA complex. In the complex, theβ-wing of the RQC winged-helix motif acts as a scalpel to induce unpairing of a Watson-Crick base pair, an explanation for the unique activities of RecQs toward recombination andrepair intermediates such as Holliday junctions.1.はじめに1.1 RecQファミリーヘリカーゼ細胞が正常に分裂するためには, 2本の遺伝子DNAがねじれ合わさった二重らせん構造がいったんほどかれ,それぞれがコピーされる必要がある.このさいにDNAをほどく(巻き戻す)という重要な作用をするのが,ヘリカーゼとよばれる一群のタンパク質酵素である. RecQファミリーヘリカーゼは,大腸菌からヒトまで広く保存されているヘリカーゼの一種で,ゲノムDNAの安定性維持に必須な役割を果たしている.ヒトには5種類のRecQヘリカーゼが存在するが,そのうちWRN(Werner syndrome protein)とBLM(Bloomsyndrome protein)が変異によって機能を失うと,それぞれ日本人に多い早老症のウェルナー症候群と,ガン多発のブルーム症候群が引き起こされる.いずれも常染色体劣性のまれな遺伝病で,治療法の見つかっていない難病である.WRNとBLMは一般的な複製ヘリカーゼと異なり,通常の二重らせんに加えて,ホリデイジャンクションとよばれる十字型の組換え中間体や,染色体末端を保護しているテロメアなど,特殊な構造をとったDNAを解きほぐすことができる.この優れたヘリカーゼ活性こそ, WRNとBLMが細胞を,早期老化とガン化から守ることができる理由と考えられているが,なぜ可能なのか,仕組みはわかっていなかった.筆者らは, WRNとBLMのC末側に保存された2つのドメインに,活性の秘密が隠されているのではないかと考えて,構造解析の研究を進めてきた. 1)-4)本稿では,一連の研究から明らかとなった, RecQファミリーヘリカーゼの作用の仕組みについて解説する.1.2 WRNとBLMのドメインWRNとBLMは,いずれも約1,400アミノ酸からなる大きなマルチドメインタンパク質である(図1).モーターとして働くATPaseドメインに続いて,特徴的な2つの領域, RQCドメイン(RecQ C-terminal)とHRDCドメイン(helicase-and-ribonuclease D-C-terminal)を有している.RQCドメインは名前のとおり, RecQファミリーだけが有するドメインで,ほかのタンパク質には見つかっていない.図1ヒトWRNとBLMのドメイン構成.(Domain diagram of human WRN and BLM.)本研究では両タンパク質の, RQCドメインとHRDCドメインの立体構造を決定した. ATPaseドメインに付加された亜鉛(Zn)結合モチーフは, RQCドメインとの連結部として働く. C末端の暗く塗りつぶした領域は,核移行シグナル.日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)133