ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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概要

日本結晶学会誌Vol56No2

トランスサイレチンの中性子結晶構造解析で明らかにする水素結合ネットワークとpH感受性図3図4His88と水分子のオミット差フーリエ図(+3.0σ).(Omit difference Fourier map around His88 andwater molecules(+3.0σ).)pD 7.4とpH 4.0の結晶構造比較.(Structural comparisonbetween pD 7.4 and pH 4.0.)中性からpH 4.0に低下する際にプロトン化されるアミノ酸残基を特定することができる.構造比較した結果,Asp74, His88, Glu90の3つのアミノ酸残基がpH 4.0とpD 7.4では異なる相互作用を形成していた(図4). Asp74は中性条件下ではSer77と水素結合を形成しているの対して,酸性条件下ではその側鎖が分子の外側に向き, TTRと溶媒の接触面で水分子と水素結合を形成していた.His88は前述のとおり中性条件下で大きな水素結合ネットワークを形成しているの対して,酸性条件下では分子の外側の溶媒領域にはじき出され,どのアミノ酸残基とも相互作用していなかった. Glu89は中性条件下でLys76と塩橋を形成している一方で,酸性条件下では塩橋の代わりに水分子と水素結合を形成していた.中性子解析によって中性条件下ではAsp74, Glu89はプロトン化しておらず,His88はシングルプロトン化状態であることを確認している.つまり, pHが低下するとこの3つのアミノ酸残基がプロトン化され,中性条件下での構造を維持できず,構造が不安定化することが強く示唆された.日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)図5 2量体-2量体界面で形成されている水素結合.(Hydrogen bonds at dimer-dimer interface.)3.2水素結合ネットワークと四次構造前項で議論したHis88を含む水素結合ネットワークは四次構造安定性にも深く関係している. His88を含む水素結合ネットワークはThr75, Trp79, Ser112, Pro113,水分子などがかかわっている(図3).これらの水素結合はすべてサブユニット内で形成されている.一方で, Ser112, Pro113は2量体-2量体間界面に位置している(図5).サブユニットAのSer112(A)とTyr114(A)はそれぞれサブユニットDのSer112(D), Ala19(D)と水素結合を形成しているが,Ser112IleやTyr114Hisはアミロイドーシスを発症する変異体であることが知られており,これらの水素結合が4量体維持に重要であることがわかる. 13),14) His88を含む水素結合ネットワークが形成されるとSer112とPro113の構造が安定化され, 4量体維持に重要なSer112(A)?Ser112(D),Tyr114(A)?Ala(D)間で形成される水素結合も安定化され,結果的に4量体安定性に寄与していると考えられる.Ser112とPro113の平均温度因子を全体の平均温度因子で割った値を比較してみると, pH 4.0では0.79であったのに対し, pD 7.4では0.63であった.相対的な比較ではあるが,これらのアミノ酸残基はpD 7.4のほうが安定な状態を保持していることが結晶構造からも示唆される.以上のことをまとめると, pHが低下するとHis88のNδ1原子がプロトン化され,サブユニット内で形成されていた水素結合ネットワークが破壊される. 4量体形成に重要なSer112やTyr114はこの水素結合ネットワークに直接かかわっており,この水素結合ネットワークの消失はサブユニット間相互作用を弱めることが示唆された. pH低下とHis88のダブルプロトン化,サブユニットおよび四次構造の不安定化の関係を中性子結晶構造解析によって明らかにした.4.おわりに本稿では,中性子結晶構造解析によって決定したプロトン化状態・水素結合ネットワークとpH感受性・構造安定131