ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

ページ
57/86

このページは 日本結晶学会誌Vol56No2 の電子ブックに掲載されている57ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol56No2

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol56No2

DNA損傷修復に働く酸化ヌクレオチド分解酵素MutTとDNAポリメラーゼηの反応機構の解明濃度のCa 2+存在下で調製した.溶液中の条件を基に,結晶内反応のpH(6.0~7.5)を検討した.電子密度変化から反応の進行が見られ,結晶のmosaicityに影響を与えない条件としてpHを6.8, 7.0に定め, Mg 2+濃度は1 mMとした.結晶内反応は以下の手順で行った.1)得られたPolη-DNA-dATP-Ca 2+結晶(pH6.0)を反応の行う目的pHで平衡化する.2)結晶をMg 2+の入った反応溶液にループで移して反応を開始させる.3)目的反応時間後に結晶を素早くループですくい,不凍液に浸した後,液体窒素に移して反応を完全に停止させる.最終的に反応開始から40~300秒後まで約40秒間隔で中間体の構造を決定し, Polηによるヌクレオチド転移図8反応開始前のPolη-DNA-dATP-Ca 2+構造(pH 6.8).(Structure of Polη-DNA-dATP-Ca 2+(pH 6.8).)(a)全体構造. Polηの触媒ドメインは, Finger,Thumb, Palm, Little fingerの4つのサブドメインからなる.(b)活性部位の構造と2Fo-Fc map(1.2σ).反応過程を追跡することに成功した. 29)まず反応開始前構造として, pH 6.8で平衡化したPolη-DNA-dATP-Ca 2+構造を1.5 A分解能で決定した(図8a).活性部位では, Ca 2+がBサイトにのみ結合し, Aサイトには2価金属イオンが結合していないため,プライマー末端の3’-OHがdATPのαリンから4.2 A離れており,予想どおり,ヌクレオチド転移反応が起こっていない構造であった(図8b).反応開始から40秒後には,高い占有率でAサイトにMg 2+(Mg 2+ A)が結合し,3’-OHがMg 2+ Aに配位することでdATPのαリンとの距離が3.2 Aと求核攻撃を行うのに良い位置にきていたが,3’-OHとdATPのαリンの間にリン酸ジエステル結合の形成はまだ見られなかった(図9). 80秒後からは,3’-OHとαリンの間の電子密度の強度が強くなっていき, 230秒後にかけてリン酸ジエステル結合が形成されていく様子がわかる.その一方で,予想しなかった2つの電子密度のピークを観察した. 1つは,A, Bサイトの反対側に140秒後以降に現れるピークであり,精密化の結果,平均2.2 Aの6配位構造をとることからMg 2+であると判断した(図9,上段の丸).この3つ目のMg 2+(Mg 2+ C)は,それまでdATPのリン酸部位と水素結合を形成していたArg61に置き換わって現れることから(図8b),反応中間体から反応後に生じるリン酸部位の負の電荷を中和すると考えられる.もう1つのピークは,3’-OHがMg 2+ Aに配位した後に現れ,3’-OHから水素結合距離のところにあることから一過的に3’-OHと結合する水分子であると判断できる(図9,下段の丸).反応前の構造で3’-OHと水素結合を形成していたSer113は(図8b),変異体実験の結果, k catに影響を与えなかったことから,3’-OHがMg 2+ Aに配位した後に,この水分子が一過的に3’-OHに結合してプロトンを受け取り,リン酸ジエステル結合の形成が起こると考えられる.3.2 Polηのヌクレオチド転移反応機構われわれが今回明らかにしたPolηの新規反応機構を図9Polηの活性部位の電子密度変化.(Time dependent change of electron densities in the active site of Polη.)40秒後の構造に対して,それぞれの反応時間のFo-Fc omit map(4.0σ)を重ね合わせた.新たに現れるリン酸ジエステル結合を矢印で, Mg 2+と水を丸で示す.上段の図を水平軸に対して約40度回転させたものが下段の図.日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)127