ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

中村照也図2MutTによる突然変異の抑制機構.(MutT hydrolyzes8-oxo-dGTP and prevents transversion mutations.)酵素が8-oxo-dGDPを加水分解してヌクレオチドプールの浄化に寄与している. 4),5)MutTは,通常のdGTPと比較してK mにして約14,000倍にも及ぶ高い親和性で8-oxo-dGTPを加水分解する. 2)これは,ほかの8-oxoGを認識する酵素と比較して,きわめて高い基質特異性であると言える.例えば,ヒトMTH1は8-oxo-dGTPのほかに2-oxo-dATPなどの酸化ヌクレオチドを加水分解する幅広い基質特異性を有し, 8-oxo-dGTPに対するK mはdGTPの場合と比べて17倍低い程度である. 6)また, 8-oxoG:Cペアを認識して8-oxoGを取り除くDNAグリコシラーゼMutMはG:Cペアの28倍高い親和性で8-oxoG:Cペアを認識し, 7) 8-oxoG:Aミスペアに働くDNAグリコシラーゼMutYの8-oxoG:Aミスペアに対する活性はG:Aミスペアの6倍高い程度である. 8)これまでのMutTの先行研究として, NMRによりMutT単独の構造が決定され, 9)さらに反応生成物8-oxo-dGMPの認識モデルがいくつか提唱されているものの, 10)その正確な認識機構,高い基質特異性の発現機構は不明であった.われわれは, MutTの8-oxoGヌクレオチドに対する高い基質特異性の構造学的基盤を明らかにすることを目的に,MutT単独および反応生成物である8-oxo-dGMP複合体のX線結晶構造解析を行った.2.1 MutTの全体構造MutT単独の結晶構造は,セレノメチオニン置換MutT結晶を用いた多波長異常分散法により位相を決定し,最終的に1.8 A分解能で精密化を完了した. 11),12)セレノメチオニン置換MutTは,一般的な手法であるメチオニン要求大腸菌株B834(DE3)では発現の確認ができなかったため,メチオニン非要求株BL21(DE3)を用い,培地に高濃度のイソロイシン,リジン,スレオニンを加えてメチオニン生合成系を阻害するという手法によって初めて,位相決定に図3MutTの全体構造.(Overall structure of MutT.)(a)MutT単独.ゆらいだ構造をとっているL-Aを破線で示す.(b)MutT-8-oxo-dGMP複合体.(c)MutT単独(白)と8-oxo-dGMP複合体(青)の重ね合わせ図.編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.十分な置換率でセレノメチオニン置換体を大量調製することができた. MutT-8-oxo-dGMP複合体の結晶は共結晶化により調製し, MutT単独構造を用いた分子置換法により1.96 A分解能で構造を決定した.MutTの全体構造は, 2つのαヘリックスと6つのβストランドからなるα-β-αサンドイッチ構造であった(図3a).β-2とβ-3をつなぐループL-Aは, MutT単独では電子密度が観察されず,ゆらいだ構造をとっていることが示唆された.一方, MutT-8-oxo-dGMP複合体においては,反応生成物である8-oxo-dGMPとの相互作用により, L-AはClosed型の構造をとっており,その電子密度は明瞭であった(図3b). MutT単独と8-oxo-dGMP複合体の全体構造の比較から, MutTはL-AとL-DをOpen型からClosed型へと大きく構造変化させ, 8-oxo-dGMPを認識していることが明らかになった(図3c). MutT単独と8-oxo-dGMP複合体の全体構造は, L-AとL-Dを除くと,ほとんど同じであり,対応する101残基(L-A, L-Dを除く)のCα原子間のr.m.s.d.は0.9 Aであった.今回のMutT単独および8-oxodGMP複合体の構造を, NMRで決定されたそれぞれの構造(PDB ID:1MUT, 1PUS)9),10)と比較したところ,r.m.s.d.にしてそれぞれ3.3 A(MutT単独, 120残基のCα原子間)と3.5 A(8-oxo-dGMP複合体, 127残基のCα原子間)と大きく異なっていた.124日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)