ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

単結晶X線構造解析による短寿命励起分子構造の可視化図4Acr + -Mes(ClO ? 4)の光差フーリエマップの誤差電子密度と誤差水準を超える差電子密度の三次元分布.(Threedimensionalphoto-difference Fourier map of Acr + ?Mes(ClO ? 4)and its error level.)a)光差フーリエマップの誤差電子密度. F o(OFF1)? F o(OFF2)を係数に用いており,±0.1 eA ?3の等電子密度面について描画している.b)光差フーリエマップの描画結果.誤差水準を超える±0.1 eA ?3の等電子密度面について描画.二次元の光差フーリエマップは実線:正,点線:負,破線:ゼロ, 0.03 eA ?3の等高線間隔で描画し,太い矢印は対応する構造変化を示す.れるため,両データセット間における系統誤差は光差フーリエマップの精度を著しく低下させる. ONとOFFのデータセット間の系統誤差の要因としては,高輝度な放射光X線の露光による単結晶試料のダメージが考えられる.また,パルスレーザー照射によるダメージも,先述のように励起強度を調整したとはいえ,少なからず系統誤差としての影響が懸念される.これらの影響は回折データ収集に付随して蓄積されるため, OFFのデータセットを収集後にONのデータセットを収集するような典型的なデータ収集方法では,データセット間の系統誤差は甚大になる.そこで本研究では, CCD検出器を用いてOFFとONの回折データフレームを振動角ごとに交互に収集し, 8)系統誤差の最小化を行った.具体的には,例えば振動角が3°のφスキャンでデータセット収集を行う場合, OFFのφ=0~3°をスキャン, ONのφ=0~3°をスキャン,OFFのφ=3~6°をスキャン, ONのφ=3~6°をスキャン……のようにしてOFFとONのデータセットを収集する.この方法を用いた場合の系統誤差最小化の効果を検討するために, Acr + ?Mesの過塩素酸塩結晶[Acr + ?Mes(ClO ? 4)]の2つのOFFの回折データセットを収集し,実測構造因子の差分[Fo(OFF1)? F o(OFF2)]を係数に用いた差フーリエマップを描画したところ,結晶の非対称単位内で±0.11 eA ?3以下の残渣差電子密度が全体に広がっていることがわかった(図4a).この残渣差電子密度の水準は,図3に示したこの結晶における通常の差フーリエマップで現れる+0.2 eA ?3程度の結合電子に起因した差電子密度よりも小さいことから,上記の系統誤差の最小化を行った光差フーリエマップでは,結合電子よりも小さい差電子密度として現れる結晶内微量成分としての光励起分子構造の観察が可能だと言える.光差フーリエマップで観察することが可能な構造変化と,対応するマップ中の差電子密度の例を図5に示す.日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)図5典型的な光誘起構造変化と対応する光差フーリエマップ中の差電子密度.(Difference electron densitiescorresponding to typical photo-induced structuralchanges in a photo-difference Fourier map.)3.Acr + ?Mesの光励起構造の観察3.1 Acr + ?Mesの光触媒機能ポンプ?プローブ単結晶X線構造解析を利用して,まずは光触媒機能を有する有機分子であるAcr + ?Mesの光励起構造の直接観察を行った. Acr + ?Mesは,電子受容体のアクリジニウムイオン(Acr +)と電子供与体のメシチレン(Mes)を共有結合で連結させた分子である(図6a). 9) Acr +とMesは,分子内での立体障害の影響によって直交した配置となるため, Acr + ?MesのHOMOとLUMOはそれぞれMesとAcr +に局在化しており,両者の軌道の重なりがほとんどない(図6b). Acr + ?Mesは可視光を吸収するとAcr +の一重項励起状態(1 Acr + *?Mes)を生成するが,この状態から数ピコ秒以内にMesから1 Acr + *に電子移動が起117