ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

星野学図2遅延条件と結晶内の励起分子占有率の時間変化との関係.(Relationship between delay conditions andpopulation of photoexcited molecucles in a crystal.)上段はフェムト秒レーザーで励起した際の結晶内励起分子占有率の時間変化で,下段はレーザーに対してX線パルスを同時照射(0ピコ秒遅延)と150ピコ秒遅延させて照射した際のパルス中のX線フォトンの時間分布を表す.図3通常の差フーリエ(F o ? F c)マップと光差フーリエ[Fo(ON)? F o(OFF)]マップの比較.(Comparisonbetween typical and photo-difference Fourier map.)Acr + ?MesのN位のメチル基付近のマップを,アクリジン平面に対して垂直な平面について描画している.両フーリエマップ中の等電子密度線は,実線が正,点線は負,破線がゼロを表す.返し周波数は,励起光源のフェムト秒レーザーの発振周波数と同じであるため,試料位置でレーザーパルスとX線パルスを同期させることができる.フェムト秒レーザーの時間分解能が1ピコ秒未満であるのに対して, PF-ARにおけるX線の時間分解能は100ピコ秒であるため,レーザーパルスとX線パルスを同時に照射する(両パルスのピーク時間位置を合わせる)と, X線パルス内の約半分のX線フォトンがレーザーで励起される前の単結晶に照射されることになる(図2).そこで,励起直後の単結晶の回折データを効率良く収集するために,レーザーパルスに対してX線パルスは150ピコ秒遅延させて回折データを収集した.また, TTF-CAについてはレーザー励起後に分子が刻一刻と変化する様子を観察するために,レーザーパルスに対して150ピコ秒, 500ピコ秒, 800ピコ秒, 1ナノ秒遅延してX線が試料に照射される条件にした.同期システムの詳細については,参考文献4),5)を参照されたい.2.2光励起構造変化の観察のための解析方法単結晶は分子が密に近接した濃厚溶液に似た環境であるため,結晶中に高い占有率で光励起分子を生成させるには,きわめて強い励起強度で試料にパルスレーザー光を照射する必要がある.しかし試料をパルスレーザーで強励起すると,光励起分子構造変化に起因した結晶相に対する機械的負荷や,励起後の無放射失活による熱的負荷が,レーザーのパルス幅程度の短時間で結晶試料に影響し,試料の結晶性劣化や多結晶化が起こりやすい.上記の影響を避けてポンプ?プローブ単結晶X線構造解析を行うためには,結晶中で生成される励起分子の占有率が数パーセント程度になるような励起条件で回折データ収集を行う必要がある.結晶内の少量成分(例えば,結晶相反応による反応生成物)の単結晶X線構造解析は,通常は実測構造因子(Fo)と計算構造因子(Fc)の差分(F o ? F c)を係数にした差フーリエマップの描画に基づき行う.このとき,計算構造因子は球対称の電子分布を仮定して計算されるため,差フーリエマップには球対称分布からの実測電子密度の歪みや,構造因子の計算に含まれない結合電子なども現れる. 6)そのため,目的の少量成分の結晶内占有率が10数パーセントあるいはそれ以上でないと,少量成分の構造に関係した差電子密度は上記の電子密度の歪みや結合電子よりも小さくなり検出が困難になる.つまり,上記の結晶内励起分子占有率を数パーセントに調整した励起条件において,光励起分子生成に起因した構造変化を観察するためには,電子密度の歪みや結合電子も含めた結晶内全電子密度について,光照射前後での差分を検討する必要がある.結晶内の全電子密度の差分観察は,光照射下(ON)と非照射下(OFF)の実測構造因子の差分[Fo(ON)? F o(OFF)]を係数に用いた差フーリエマップ(光差フーリエマップ)の描画7)によって行うことができる.一例としてAcr + ?MesのN位のメチル基周辺について,通常のF o ? F cを係数にした差フーリエマップと光差フーリエマップを描画した結果を図3に示す.通常の差フーリエマップでは, N10?C11結合の中心付近に結合電子に相当する+0.2 eA ?3程度の差電子密度が現れているが,光差フーリエマップではこの結合電子も含めて差分するため,光照射によるC11の微小な位置変化が±0.1 eA ?3程度の差電子密度として現れる(構造変化の詳細については3節にて紹介する).光差フーリエマップの描画にはONとOFFの2つの回折データセットから得られる実測構造因子の差分が用いら116日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)