ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

日本結晶学会誌56,115-122(2014)総合報告(学会賞受賞論文)単結晶X線構造解析による短寿命励起分子構造の可視化東京工業大学大学院理工学研究科物質科学専攻星野学(現所属:東京大学大学院工学系研究科応用化学専攻)Manabu HOSHINO: Structure Visualization of Short-Lived Photoexcited Molecule bySingle Crystal X-ray Structure AnalysisThree-dimensional structure of an organic photocatalyst, 9-mesityl-10-methylacridiniumion, at a photoexcited state and photoinduced structural dynamics in tetrathiafulvalene?pchloranilwere directly observed by single crystal X-ray structure analysis. In diffraction datacollection, a laser pump and X-ray probe(pump-probe)technique was applied. Drawing theFourier maps using difference of observed structural factors between the laser-irradiated andthe non-irradiated conditions presicely visualized electron densities corresponding to 1~2%ofphotoexcited species in a crystal. The observed structural features of photoexcited moleculesclearly reflected their photocatalitic or photoswitchable property.1.はじめに分子は,化学反応の進行や集合体である物質としての機能発現の際に,高いエネルギーをもった励起状態へと変化する.そのため,励起状態における分子構造を知ることは,化学反応のメカニズムや分子材料の機能性を理解し評価するうえで,特に重要であると考えられている.従来,励起分子の構造を調べる研究手法として,短いパルス幅のレーザー光で励起(ポンプ)した瞬間の分子を,同程度のパルス幅のレーザー光の吸収や反射で探査(プローブ)する“ポンプ?プローブ分光”が用いられてきた.多くの励起分子の寿命はナノ秒からマイクロ秒の時間スケールであるのに対して,典型的なパルスレーザーの時間分解能はフェムト秒からナノ秒であることから,パルスレーザーを用いることで励起分子が失活する前の様子を瞬間的に調べることができる.しかしながら,パルスレーザーの波長は紫外から赤外であるため,ポンプ?プローブ分光から得られる情報は励起分子の振動状態や電子遷移に関するものが中心であり,分子構造の側面では限定的と言える.そこで近年,励起状態の分子構造を三次元的かつ直接的に調べるために,上記のポンプ?プローブ分光を応用した“ポンプ?プローブ単結晶X線構造解析”1)が提案された.ポンプ?プローブ単結晶X線構造解析は,パルスレーザーで励起した瞬間の単結晶試料にパルスX線を露光して回折データを収集し,構造解析する研究手法である.典型的な単結晶X線構造解析では,定常光としてのX線発生装置が利用されるため,ポンプ?プローブ単結晶X線構造解析の実施は不可能と言える.しかし放射光蓄積リングから発生するX線は50~100ピコ秒程度の時間幅をもったパ日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)ルス光であるため,励起光源のパルスレーザーと同期させることでポンプ?プローブ単結晶X線構造解析を実現できる.本稿では,著者らがポンプ?プローブ単結晶X線構造解析を用いて可視化した,有機光触媒の1つである9-メシチル-10-メチルアクリジニウムイオン(Acr+?Mes)の光励起構造2)と,テトラチアフルバレン?p-クロラニル共結晶(TTF-CA)の新規光誘起相形成に伴う動的構造変化3)について紹介する.2.ポンプ?プローブ単結晶X線構造解析2.1単結晶X線回折データの収集ポンプ?プローブ単結晶X線構造解析に用いたX線回折データは, KEK PF-ARのビームラインNW14Aにて収集した. NW14Aにおけるポンプ?プローブ単結晶X線回折データ測定装置の概略図を図1に示す. PF-ARから794 kHzの繰り返し周波数で実験ハッチ内に導入されるパルスX線を, NW14AではX線パルスセレクターを用いて945 Hzに間引いて実験に使用する.この945 Hzの繰り図1ポンプ?プローブ単結晶X線回折実験装置概略図.(Schematic drawing of the experimental setup for pump?probe single crystal X-ray diffraction data collection.)115