ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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概要

日本結晶学会誌Vol56No2

繊維工業と結晶学図8ノズル直下の構造のTEM観察.(TEM micrograph ofa gel-spun polyethylene fiber obtained at a positionclose to spinneret.)ポリエチレンをルテニウム酸化物で染色してある(黒い部分にポリエチレンが存在する.灰色の部分は,溶媒置換したエポキシ樹脂).流動に対して垂直方向に伸びた構造が多数観察される.図9流動誘起相分離の模式図.(Schematic model representinga mechanism of shear-induced phase separation.)察した結果が図8である.まだシシケバブ構造は発現しておらず,流動に対して垂直方向に伸びた構造が多数観察される.本来均一に溶解していたはずの溶液に濃度の不均一をもたらす構造が発現している.実は,別途実施した実験,すなわち同様のポリエチレン溶液に流動を付与しながら溶液の構造を光学顕微鏡や小角光散乱で観察した結果,流動によって誘起された液-液相分離(流動誘起相分離)が発現することがわかっている. 21)低分子でも流動によって相転移点温度が変化する現象は知られているが,高分子ではきわめて顕著にこの現象が現れる.この興味深い現象は,応力と拡散の動的結合という概念で説明されており,理論的な研究が多数検討されてきた. 22)-25)この現象において,絡み合った高分子鎖と低分子溶媒の,それぞれの流動に対する応答に大きな差があること(動的非対称性)が重要である.すなわち流動場の下での高分子溶液系には,高分子鎖の絡み合いにより生じたネットワーク高分子鎖の変形に伴う弾性自由エネルギーが蓄積され,系は不安定となる.せん断速度が低いときは,蓄積した弾性自由エネルギーは,高分子鎖の絡み合いの解きほぐし(disentanglement)によって解消することが可能である(図9).この場合にはせん断流動下においても相分離は進行せず,静置状態と同程度の熱的な濃度揺らぎが存在する状態に系は留まる(図9b).一方,絡み合いの解きほぐしの速度よりもせん断流動の速度のほうが早いときには,蓄積された弾性自由エネルギーはもはや絡み合いの解きほぐしでは解消できない.この場合でも,溶媒で膨潤し変形された高分子鎖は,溶媒をしぼり出す(solvent squeeze)ことで,変形の緩和・弾性自由エネルギーの解消を果たす(図9c).熱的濃度ゆらぎによって形成された高分子濃厚相はsolvent squeezeによってさらに濃厚となり,やがて相日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)図10シシケバブ構造の前駆構造.(Precursory structuresof shish-kebab.)流動誘起相分離によって形成した高分子濃厚相ドメインが,流動方向に配列している.さらにドメイン間より伸びきり鎖結晶(シシ)が成長している様子も観察された.(a)図8よりやや下流でのTEM像,(b),(c)相分離ドメインの配列構造の拡大像,(d)相分離ドメイン間で生成する伸びきり鎖結晶形成の模式図.分離に発展するのである.この現象は浸透圧に逆らう仕事をすることによってもたらされるが,外部から系に与えられるせん断流動がこの仕事をなすのである.図8よりも下流の構造を観察した結果が図10である.上流部では流動誘起相分離によって発現した高分子濃厚相ドメインが空間的にランダムに存在していたが,下流では流動方向に配列していた(図10a).高分子濃厚相が流動方向に配列するのは,流体力学的な効果によるものと推113