ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

中性子散乱による二次電池材料中の構造乱れの研究〈F〉との差?F nを用いると, F nは, F n=〈F〉+?F nとなる.?F nには原子の種類のずれ?fと原子平衡位置からのずれ?rが含まれている.なお,|〈F〉|2はブラッグ散乱強度に相当する.干渉性散乱による散漫散乱強度は, ?F nを用いて次のように記述できる.*ID= k∑∑exp iQ?( Rn? Rn') ?Fn?Fn'(2)超イオン導電体などの材料では高温で平均構造をもち,原子数よりも多くの存在可能な原子位置をもつ. 24),25)この場合,ある原子位置に原子が存在しない場合にはf=0となり,原子散乱因子の乱れ?fが生ずる. ?fの乱れの間に関連があるとき,から短距離秩序度を導出できた. 22)また,より生ずる散漫散乱の強度解析より熱振動における原子間の相関効果を決定した.熱振動における原子間の相関効果μss'は,次のように定義された.2 2μss ' = 2 ?r s ?r s ' ( ?r s ) + ( ?rs ')なお,(3)の項はそれぞれの乱れが独立であるとして無視されることが多い.振動する散漫散乱強度は,原子間距離,原子熱振動パラメータ,原子配位数,熱振動の相関効果などで記述される.最近接原子間距離をr 1,第二近接原子間距離をr 2とすると, sin(Qr 1)やsin(Qr 2)などの和として振動強度は計算できた. 1)α-AgI型超イオン導電体では, ?f?fによる乱れが比較的Qの小さな領域に,?r?rs, s'n n'?f?rs, s's, s'[ ]?f?fs, s'( )の乱れがQの全領域にわたって影響を及ぼすことが明らかになった.KBrの295 Kにおける散乱強度を図7に示す.散乱角が, 45, 80, 120度付近で散漫散乱強度はピークをもつことがわかる.秩序構造をもつKBrでは?f?fによる乱れがなく,散漫散乱強度の変化が熱振動の相関効果を取り入れた解析で説明できた. 26)イオン結晶,半導体,金属などの散漫散乱の解析から決定した,熱振動の相関効果の値を図8に示す.熱振動の相関効果は,原子間距離が増加すると小さな値となり,距離が5 A程度でほぼ0となった.また,温度が低い場合,高い場合に比較し相関効果の値が小さくなることがわかった. 27)原子間の熱振動における相関は,原子間に力定数が存在している場合に生じる.すなわち,最近接原子間で力定数は最も大きな値をもち,原子間距離が5 A程度までは,距離とともに減少していく.原子間の距離が5 A以上では,原子間の力定数は0となり,これらの原子は独立に熱振動することが明らかになった.4.3熱振動による乱れとフォノン物性式(3)で定義された相関係数の値μから次の関係式を利用すると,原子間の力定数αを見積もることができた.{ }2ss' B ss' S S' ss'α= 8πkTμ3( B+ B)( 1?μ)日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)?r?rs, s's, s'(4)図7 KBrの中性子回折強度と散漫散乱の計算値.(Observedneutron diffraction intensity and calculated diffuseneutron scattering intensity of KBr.)図8熱振動における相関効果の温度および原子間距離依存性.(Temperature and inter-atomic distancedependence of correlation effects among thermaldisplacements of atoms.)この関係式は最近接原子間以外に,第二,第三近接原子間の場合にも適用できる.相関効果の値が最大である1のときに力定数は無限大,また相関効果の値が0のときに力定数は0となる.室温における熱振動の相関効果の値は,図8を用いて原子間距離から推定できる.すなわち,散漫散乱についての詳細な解析を行わなくとも力定数が見積もられ,格子定数や結晶構造などから,計算機シミュレーションでフォノンの分散関係,物質中の音速や比熱の値が推定できた.散漫散乱の解析は,材料合成過程の研究などに利用できる.水素原子を含む材料では,水素の非干渉性散乱断面積が非常に大きな値をもつため大きなバックグラウンド強度が観測された.例えばLiOHおよびNiOからLiNiO 2を空気中で合成する場合,バックグラウンド強度から未反応107