ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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概要

日本結晶学会誌Vol56No2

佐久間隆,檜山祐二トインターカレーション(GIC)物質と称する.黒鉛とリチウムはLiC 6というLi-GICを形成する.このLi-GICからLiの脱挿入反応が起きることにより充放電が行われる.しかしLiの脱挿入反応により層間の伸縮が生じるため,充放電を繰り返すと負極の膨張・縮小という体積変化を起こすといった欠点がある. 18)ハード・カーボンは無定形炭素の一種で,三次元的に無秩序な構造をもった物質である.小さな結晶子がランダムに配向しており,結晶子の面間隔が非常に大きいためLiの脱挿入において面間隔の膨張が生じないため,負極材料に適している物質である. 19)カーボンに代わる負極材料としてSn合金やSi合金が注目されている. 20) LiC 6構造をとる黒鉛負極に対してこれらの合金負極はLi 22Pb 5構造をとり,金属原子1個に対して最大4.4個のLiをドープすることができる.飛躍的な容量増加が期待できるが, Liの脱挿入反応により体積の膨張が生じるという欠点をもつ. 21)3.アイソトープ置換と中性子回折強度固体中でのLi原子の拡散を調べる実験手法として,中性子散乱実験が挙げられる.天然Li原子は, 7.5%の6 Liと92.5%の7 Liより構成される. 6 Liは大きな中性子吸収断面積(σa=940/10 ?24 cm 2)をもつため,長い測定時間を必要とする. 3)リチウムイオン二次電池の中性子回折実験を行う場合,材料中のリチウムをすべて7 Liに置換することは,材料の純度や価格などで問題がある.この吸収断面積と測定時間との関係を調べるため, LiCoO 2(Li:natural)と7 LiCoO 2試料を作製し,同一条件下での中性子回折測定をJ-PARCに設置されているiMATERIAで行った.得られた回折強度を図6に示す. 7 LiCoO 2の中性子回折強度は, LiCoO 2の回折強度の約2倍となることがわかった.すなわち,同一のカウント数まで測定する場合,図6 iMATERIAによるLiCoO 2の中性子回折測定.(Neutrondiffraction measurement of LiCoO 2 by iMATERIAdiffractometer.)7 LiCoO 2試料では, LiCoO 2の半分の時間で実験が完了することになる.数年後にJ-PARCにおける加速器の出力が1 MWとなると, iMATERIAでは1試料当たり5分程度で測定が可能となる.このため,ビーム測定時間の制約は少なく,天然Liを7 Liで置換する必要性はほとんどないことが予想される.4.材料中の乱れと散漫散乱電池の充放電の際,材料中ではLiの脱挿入が生じる.このため,イオン位置における占有率が変化する.また,イオンの熱振動因子パラメータは通常の材料に比較して大きく,独立熱振動モデルでの取り扱いが困難となる.イオンの拡散を理解するうえでは,これらの乱れに関する考察が必要となっていた.散漫散乱の解析から,ブラッグラインでは導出できない,イオンの短距離秩序度や熱振動における原子間の動きの関連などを評価できた.また,中性子散乱ではフォノンなどの非弾性散乱測定が可能であり,これらを議論に取り入れることがイオン拡散の理解に重要となる.4.1中性子散乱と乱れ結晶構造解析を行うには,回折強度をブラッグラインとバックグラウンド(散漫散乱)とに分離する必要がある.ブラッグライン強度の解析から,結晶中の原子位置や原子熱振動に関する情報が得られる.これらは,構造因子の時間(ないしは空間)平均に相当する.これに対し,散漫散乱は,構造因子の平均からのずれの影響を含み,材料中の乱れの情報を取り出すことが可能である.回折強度は弾性散乱強度と非弾性散乱強度との合計である.このため,回折強度の解析から,非弾性散乱であるフォノン物性を推定できることがわかる.回折強度測定で得られる散漫散乱は,原子の確率分布や欠陥などの静的な乱れ(弾性散乱部分)と,熱振動や拡散などによる原子の動的な乱れ(非弾性散乱部分)に関係する.例えば,秩序構造をもつ結晶の場合,静的な乱れは生じないため,散漫散乱は主として原子熱振動による位置の乱れが原因となる.三軸型中性子散乱装置では,アナライザーを用いない中性子回折測定のほかに,アナライザーを利用して,弾性散乱部分あるいは特定エネルギーの非弾性散乱強度測定ができる. 22),23)これを利用し,通常の回折測定による構造の乱れの決定とともに,乱れの原因が静的なものか,または動的なものかを区別することができた.4.2構造因子と散漫散乱強度結晶の構造因子Fは原子散乱因子fと原子位置rで表される.∑jexp[ j]jF = f ?iQ ?r(1)ここで散乱ベクトルQは, Q=4πsinθ/λである.ある瞬間におけるn番目の構造因子F nと構造因子の時間平均106日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)