ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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概要

日本結晶学会誌Vol56No2

津田健治図3温度293 KでBaTiO 3の正方晶相から得た(a)[001]pcおよび(b)[100]pc入射のCBED図形. 24)図4 Ti<111>オフセンターモデルの模式図. 24)(Schematic diagrams of the model of Ti off-centeringin<111>directions.)(a)強誘電菱面体晶相,(b)強誘電斜方晶相,(c)強誘電正方晶相,(d)常誘電立方晶相.巨視的な自発分極の方向を矢印で示した.(CBED patterns of the tetragonal phase of BaTiO 3taken at 200 K with(a)the[001]pc incidence and(b)the[100]pc incidence, respectively.)直線mに関する鏡映操作を行った図形とのdifference map,投影した結晶構造および強誘電分極方向の模式図.difference mapおよび投影構造・分極方向の模式図を合わせて示した.正方晶相の空間群P4mmから期待される鏡映対称を点線で示した.矢印で示した位置の強度の比較とdifference mapの大きい残差から,正方晶相から期待される鏡映対称はいずれも破れていることがわかる.よって,正方晶相においても,局所構造の対称性が正方晶相と異なっていることを見出した.以上より, BaTiO 3の菱面体晶相の局所構造の対称性は,X線・中性子回折で得られている平均構造の菱面体晶相の空間群R3mと一致するが,斜方晶相および正方晶相の局所構造の対称性は平均構造の対称性と異なっていることが明らかになった.これらに加えて次のようなことが実験で見出された.斜方晶相および正方晶相では, CBED図形を撮影する際に,電子プローブの位置をナノスケールで動かすと,試料厚さがほぼ同じ領域内でも回折強度の揺らぎが見られた.一方,菱面体晶相ではこのような回折強度の揺らぎは見られなかった.これは,菱面体晶相が完全に秩序化した相であるのに対し,斜方晶相と正方晶相ではナノサイズの局所構造(ナノ構造)が存在してそれが空間的に揺らいでいると解釈できる.次に,実験結果を説明するための構造相転移のモデルについて考える.変位型の相転移モデルでは,斜方晶相および正方晶相の局所構造の対称性もそれぞれ斜方晶対称および正方晶対称であり, CBED法の実験結果を説明できない.これに対し,ナノ構造を有する秩序・無秩序型の相転移モデルを考えることで実験結果を説明できる.これについて以下で述べる.図4に, Takahasiによる秩序・無秩序型相転移のTi<111>オフセンターモデル18)を模式的に示す.実際にはO原子の変位も伴うが,簡単のため各相でのTi原子の変位のみを示した.また,巨視的な自発分極の方向を矢印で図中に示した.図4aは菱面体晶相の局所構造のモデルであり, Ti原子は, 8つの<111>pcのうち1つの方向に変位した位置をとる. Tiの変位方向に強誘電分極が現れる.この構造はX線・中性子回折で得られている平均構造と同じもので,図では誇張して表示してあるがTiの変位は10 pm程度である.収差補正装置を有する最新の透過型電子顕微鏡を用いて高分解能TEM/STEM像を撮影しても,この程度の原子変位を検出することは容易ではない.これに対しCBED法では明瞭な対称性変化が観察できることを動力学回折理論によるシミュレーションで確認した.図4bは斜方晶相の局所構造モデルであり, Ti原子が取り得る2つの変位した位置を示してある.これは,斜方晶相では, 2つの異なる分極方向([111]pcおよび[1 _ 11]pc)をもつ菱面体晶構造がナノサイズの局所構造として存在することを意味する.巨視的な斜方晶相の構造はそれらの平均として形成され,巨視的な分極の方向も斜方晶相の分極と一致する([011]_ pc=[111]pc+[1 11]pc).このモデルでは,[100]pc方向から見た時に2つの異なる局所構造で鏡映面100日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)