ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

日本結晶学会誌56,98-103(2014)特集:物性研究における結晶学-物性のダイナミズムと結晶構造-収束電子回折法によるBaTiO 3強誘電相の局所構造揺らぎの研究東北大学多元物質科学研究所津田健治Kenji TSUDA: Study of Local Structural Fluctuations in the Ferroelectric Phases ofBaTiO 3 Using Convergent-Beam Electron DiffractionLocal structures of the rhombohedral, orthorhombic, and tetragonal phases of barium titanate(BaTiO 3)have been investigated using convergent-beam electron diffraction(CBED). Nanometersizedrhombohedral structures have been found in both the orthorhombic and tetragonal phases.This indicates the existence of an order-disorder character in their phase transformations. Thenanostructures in these phases are discussed in terms of an order-disorder model with off-centeredTi in the[111]directions. Spatial distributions of the nanostructures were examined by thecombined use of the scanning transmission electron microscopy and convergent-beam electrondiffraction methods(STEM-CBED method). Two-dimensional structural fluctuations weresuccessfully visualized in the tetragonal phase of BaTiO 3 .1.はじめにチタン酸バリウム(BaTiO 3)は,ペロブスカイト型構造をもつ典型的な強誘電体であり, Ti原子の周りにO原子が八面体配置した構造をもつ. BaTiO 3は,高温常誘電相の立方晶相(空間群Pm3m)から,低温で3つの強誘電相(正方晶相(空間群P4mm),斜方晶相(空間群Amm2),菱面体晶相(空間群R3m))へと逐次構造相転移を起こすことがよく知られている.強誘電相での自発分極の方向は,正方晶相では立方晶相の<100>方向のうちの1つ,斜方晶相,菱面体晶相ではそれぞれ立方晶相の<110>,<111>方向の1つと各相で異なっている.また各相では,自発分極の方向に沿って, Ti原子とO原子が立方晶相の原子位置から互いに逆方向へと変位することが, X線および中性子回折による結晶構造解析から報告されている. 1)-3)これらの原子変位は,高温相の立方晶相のΓ15フォノンモードの凍結により説明され, BaTiO 3の構造相転移は変位型相転移4),5)とされてきた.実際,中性子非弾性散乱により,過減衰ではあるがΓ15フォノンモードのソフト化が観測されている. 6),7)その一方で,秩序・無秩序型相転移の性質が存在することが, X線散漫散乱, 8),9)電子常磁性共鳴10),11)をはじめ多くの実験12)-17)および理論18)-22)から報告され,相転移は単純な変位型のモデルとしては理解できないことが指摘されている.秩序・無秩序型の相転移であれば,高温相で分極が無秩序配列し低温相で秩序化する様子が,局所構造を通して観測されるはずであるが,そのような局所構造は,これまでX線・中性子回折および電子顕微鏡のいずれでも観察されていなかった.本稿では, BaTiO 3の各強誘電相での局所構造を調べて相転移機構について新たな知見を得るため,収束電子回折(Convergent-beam electron diffraction:CBED)法23)を適用した結果について述べる. 24) CBED法は,透過型電子顕微鏡を用いてナノメーターサイズに収束した電子プローブを試料に照射して電子回折図形を得る手法である.ナノスケールの局所領域の対称性を調べることができる特徴がある.また強い動力学回折効果を利用して分極の極性まで判別できる点は,特に強誘電体の局所構造を調べるうえで有利である.さらに,走査透過電子顕微鏡(ScanningTransmission Electron Microscopy:STEM)法とCBED法を組み合わせた手法(STEM-CBED法)を新たに提案し,ナノ構造の空間分布を可視化した結果についても述べる. 25)2.実験および解析透過電子顕微鏡用BaTiO 3試料としては, TSSG法により作製された単結晶を粉砕してマイクログリッド上に分散させたものを用いた. CBED実験にはエネルギーフィルター透過型電子顕微鏡JEM-2010FEF 26)を加速電圧100 kVで用いた.液体窒素冷却試料ホルダーにより,菱面体晶相(試料温度90 K),斜方晶相(200 K)および正方晶相(293 K)で,電子顕微鏡像を参照しつつ,格子欠陥や双晶境界を避けて試料の1~2 nm程度の大きさの領域に電子プローブを照射してCBED図形を撮影した. STEM-CBED実験には,透過型電子顕微鏡JEM-2100Fを加速電圧200 kV98日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)