ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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概要

日本結晶学会誌Vol56No2

堀部陽一図7 HoMnO 3の側面方向から得られた超格子暗視野像.(Sideview superlattice dark-field images in HoMnO 3.)暗視野像結像に用いた回折斑点は,それぞれ(a)2/3 2/3 2超格子反射,(b)1/3 1/3 6超格子反射,(c)_ _ _1 /3 1 /3 6超格子反射である.(b)および(c)の散乱ベクトルは, g→および?g→の関係にある.(a)の挿入図は対応する領域から得られた電子回折図形であり,電子線の入射方向は[11 _ 0]方向にほぼ平行である.7a)では,反位相境界の存在を示す線状コントラストのみが観察される.同一の領域において,フリーデル則背反条件下で1/3 1/3 6(矢印B)および1 _ /3 1 _ /3 6 _超格子格子反射(矢印C)を用いて撮影した暗視野像(図7bおよびc)中では,図7a中の反位相分域に対応する領域において,明暗コントラストの交互の出現が観察される.また図7bおよびcにおいて,明暗コントラストの反転が見出される.これらの結果は,図7bおよびcで示される明暗コントラストの分域が,本系における180°強誘電分域であることを示している.ここで重要な特徴は,ボルテックス分域境界が,強誘電分極方向であるc軸方向に対して平行でないことである.このことは,本系での180°強誘電分域が,対向(Head-to-Head:HH)および背向(Tail-to-Tail:TT)タイプの強誘電分極関係を有することを表している.チタン酸バリウムBaTiO 3などの典型的な強誘電体における強誘電分域境界では,系のエネルギー利得のため,通常分極方向はHead-to-Tailタイプの関係となっている. 25)HoMnO 3において観察された, HHタイプ分域境界の図8 HoMnO 3における180°強誘電分域.(180°ferroelectricdomains in HoMnO 3.)(a)HAADF-STEMを用いて観察されたHead-to-Headタイプの分域境界.(b)側面方向から見たボルテックス芯近傍の180°強誘電分極配置の模式図.矢印はそれぞれ分極方向を表す.また挿入図は, CAFMを用いて観察された分域境界近傍の伝導性マップを示す.HAADF-STEM像(フーリエフィルター像)を図8aに示す.電子線の入射方向は,[11 _ 0]方向にほぼ平行である.図左側に位置する分域では,マイナス方向への分極を示すUp-Down-Downタイプのイオン変位が,右側に位置する分域では,プラス方向への分極を示すDown-Up-Upタイプのイオン変位が観察される.これらの分域間の境界を,像中の破線で示してある.分域境界は実際に分極方向と平行にはなっておらず, HHタイプ分域境界が見出される. 21)この結果は,図7に示す超格子反射暗視野像の結果とも一致している.以上の結果を基に描いた,側面方向から見たボルテックス芯近傍の反位相/強誘電分域での強誘電分極配置の模式図を図8bに示す. HoMnO 3中においては,強誘電分極方向にほぼ平行な通常の180°分域境界に加えて, HHタイプ分域境界やTTタイプ分域境界が存在する.ここで,これらのHHタイプ分域境界およびTTタイプ分域境界は,それぞれ正および負の拘束電荷をもつと考えられる.六方晶マンガン酸化物RMnO 3は,通常ホールタイプの電荷をもつことから, TTタイプ分域境界では,拘束電荷の遮蔽のために伝導電荷が蓄積されるのに対し, HHタイプ分域境界では電荷の欠乏が生じると考えられる.実際に側面方向から得られたHoMnO 3におけるCAFM像(図8b挿入図)から, TTタイプ分域境界では比較的大きな電気伝導性を示すのに対し, HHタイプ境界はほとんど電気伝導性を示さないことがわかる. 16),26)96日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)