ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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概要

日本結晶学会誌Vol56No2

マルチフェロイック六方晶マンガン酸化物のボルテックス分域構造と新奇物性反位相分域と強誘電分域からなるボルテックス分域構造と,関連する物性についての研究結果を紹介する. 18)-20)2.実験方法観察に用いた試料は,フラックス法およびフローティングゾーン法を用いて作製された六方晶マンガン酸化物RMnO 3(R=YおよびHo)単結晶である.透過型電子顕微鏡観察用試料には,単結晶試料を切出・機械研磨したのち,アルゴンイオンミリング法を用いて薄片化したものを用いた.透過型電子顕微鏡観察は,加速電圧200 kVのJEM-2000FXおよびJEM-2010Fを用いて行った.特に本研究における180°強誘電分域の観察は,動力学的効果を利用した, 2波励起時に生じるフリーデル則背反条件下において,暗視野像を撮影することにより行った. 19)また,高角環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)像観察は,加速電圧200 kVのTecnai-G2-F20を用いて行った.また電子回折図形の指数付けは,高対称構造であるP6 3/mmc六方晶構造を基準に行っている.伝導性原子間力顕微鏡観察は,単結晶試料の自然表面および劈開面を用いて行った.3.RMnO 3におけるボルテックス分域構造YMnO 3における室温での電子回折図形には, MnO 5六面体傾斜およびYイオンのc軸方向変位に関係した超格子反射が出現する.[001]方向から撮影された電子回折図形を,図2a挿入図に示す.回折図形中には,強い強度の図2(a)YMnO 3におけるボルテックス分域構造.(Vortexdomain structure in YMnO 3.)(a)超格子反射暗視野像.電子回折図形(挿入図)中の矢印Aで示す位置に超格子反射が出現する.(b)ボルテックス分域構造の模式図.日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)基本格子反射に加えて,矢印Aで示す1/3 1/3 0タイプ位置に超格子反射が観察される.これらの超格子反射のうち, 1/3 4/3 1超格子反射を用いて結像した暗視野像を図2aに示す.暗視野像撮影のため,実際の電子線の入射方向は[001]方向から約15°傾けたものとなっている.像中には, 1点で交わる6本の線状コントラストが観察される.同じ領域から得られた基本格子反射暗視野像には,このコントラストが観察されないこと,線状コントラストの高分解能像には,超構造に起因する格子縞にシフトが観察されることから,これらの線状コントラストは反位相境界であることが明らかとなった.さらに高分解能観察から,ある反位相分域と,隣り合う分域,その隣の反位相分域中の超構造は,すべて異なる位相関係であることが示された. 15),20)この結果は, 6つの反位相分域が1点で交わることを示している.一方,交点近傍の領域において,フリーデル則背反条件下において撮影された暗視野像から,交点周りでは+および-の2種類の180°強誘電分域が交互に出現することが見出された(詳細は図7において説明する). 18)すなわちこれらの分域構造は, 3種類の反位相分域(α,β,γ)および, 2種類の180°強誘電分域(+,-)からなる6種類の分域が,交点周りにα+/β-/γ+/α-/β+/γ-の順序で規則配列したものであると考えられる.暗視野像から得られた,隣り合う2つの交点周りの分域配列の模式図を図2bに示す.ここで,図中左側の交点では,分域配列がα+/β-/γ+/α-/β+/γ-と反時計回りになっているのに対し,右側の交点では,分域配列が時計回りとなっている.すなわち,左側交点をボルテックス配列(ボルテックス芯)と定義すれば,右側交点は反ボルテックス配列(反ボルテックス芯)となっている.このことは, YMnO 3における分域構造が,反位相/強誘電分域のボルテックス配列と反ボルテックス配列の対により構成されることを示している.これらの結果から,六方晶系マンガン酸化物の反位相/強誘電分域は,ボルテックス分域構造の存在により特徴付けられることが明らかとなった. 16),17)ボルテックス分域構造はトポロジカルな欠陥であることから,容易に生成・消滅できないと考えられる.この点について明らかにするため,外部電場印加前後におけるボルテックス分域構造変化の観察を行った.図3aおよびbは, YMnO 3単結晶試料において,それぞれ外部電場印加前のAs-grown試料から得られた超格子反射暗視野像および,室温において抗電場よりやや大きい約75 kV/cmの電場印加により分極化処理した試料から得られた超格子反射暗視野像である.超格子反射暗視野像観察における電子線入射方向は,[001]方向から約15°傾斜させており,また暗視野像撮影は1/3 4/3 1超格子反射を用いて行っている.As-grown試料から得られた暗視野像中では,大きさが同程度の6つの分域から形成される対称的なボルテックス分域構造が観察される.一方,分極処理試料から得られた93