ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

概要

日本結晶学会誌Vol56No2

日本結晶学会誌56，92-97（2014）特集：物性研究における結晶学－物性のダイナミズムと結晶構造－マルチフェロイック六方晶マンガン酸化物のボルテックス分域構造と新奇物性九州工業大学大学院工学研究院物質工学研究系堀部陽一Yoichi HORIBE: Vortex Domain Structure and its Emergent Physical Properties inMultiferroic Hexagonal Manganites RMnO 3Characteristic behavior and physical properties associated with the vortex domain structurein multiferroic hexagonal manganites RMnO 3（R＝Y, and Ho）have been investigated mainlyusing transmission electron microscopy and high angle annular dark field scanning transmissionelectron microscopy. The insulating nature due to peculiar local structures is found at the vortexdomain boundaries. In addition, unique 180°charged ferroelectric boundaries originated fromthe vortex domain formation are discovered, leading to selective boundary conduction relatedto bound charge screening.1．はじめに強誘電性（反強誘電性）・強磁性（反強磁性）および強弾性が共存し,互いに相関しあう物質をマルチフェロイック物質と呼ぶ. 1)-4)近年,これらマルチフェロイック物質中での各種物性の密接な相関に関係して,さまざまな物性に対応する分域構造間の関係や形態学的特徴,さらに分域境界における新奇物性について精力的な研究が行われている. 5)-9)マルチフェロイック物質の一種である六方晶マンガン酸化物RMnO 3（R＝Sc, Y, Dy-Lu）は,結晶構造中のMnO 5酸素六面体の傾斜を主秩序変数,強誘電自発分極を従秩序変数とする間接型強誘電体である. 10)-13)図1aに六方晶マンガン酸化物RMnO 3の結晶構造を示す.この物質は, R三角格子層およびMnO 5酸素六面体層からなり,六方晶構造（空間群：P6 3cm）をもつ.これらのMnO 5酸素六面体は,図1bに示すように,√3×√3型超構造を形成するよう傾斜するとともに, Mn 3+イオンの三量体形成を促し,希土類元素イオンをc軸方向に変位させる.この希土類元素イオンのc軸方向への変位に関係して,強誘電性が出現する.また低温度域においては, Mn 3+イオンに関係した三角格子型の反強磁性の出現が報告されている. 14)従来の研究から,本系において, MnO 5酸素六面体傾斜に起因する√3×√3型超構造に関係した3種類の反位相分域（α,β,γ）および, c軸方向に沿った強誘電分極方向に関係した2種類の180°強誘電分域（＋,－）からなる,計6種類の分域の規則的な配列が報告されている. 15)-17)具体的には, YMnO 3やHoMnO 3, ErMnO 3などの六方晶マンガン酸化物において,α＋/β－/γ＋/α－/β＋/γ－の6種類の分域が1点で交わる,クローバーリーフ分域構造の存在が見出されている.この分域構造は,交点周りの配列に方向性をもつことからボルテックス（渦状）構造を有し,トポロジカルな欠陥の一種であることから,さまざまな興味深い性質を示す.われわれは,これら六方晶マンガン酸化物RMnO 3におけるボルテックス分域構造について,透過型電子顕微鏡法を用いたマクロ構造（反位相分域と強誘電分域の関係など）およびミクロ構造（分域境界などの局所構造など）について研究を行っている.本稿では,六方晶マンガン酸化物RMnO 3（R＝Y, Ho）において見出された,図1六方晶マンガン酸化物RMnO 3の結晶構造.（Crystalstructure of hexagonal manganites RMnO 3.）（a）三次元模式図および（b）［11 _ 0］方向からの投影図.92日本結晶学会誌第56巻第2号（2014）