ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

マルチフェロイックMnWO 4とRMnO 3(R=Dy or Tb)の構造物性研究図6 RMnO 3の(a)磁場誘起強誘電相(P//a)におけるMnスピン配列と(b)ゼロ磁場強誘電相(P//c)におけるMnスピン配列. 32)(Mn spin arrangementsof RMnO 3(a)in the field-induced P//a phase and(b)in the P//c phase.)気分極がc軸からa軸方向に90度回転する(図5b). 3)4.2磁気強誘電相転移の駆動力MnWO 4とRMnO 3に代表される磁気強誘電体では,多くの場合,螺旋磁気秩序の形成と同時に強誘電分極が発生する.横滑り磁気構造にスピンカレントモデルを適用すると, Mnの間にある酸素イオンがc軸方向に変位して電気分極を生み出しているはずである(図2b).そもそも,この電気的かつ磁気的な相転移において螺旋磁気秩序と強誘電秩序のどちらが主体なのだろうか?従来型の変位型強誘電体, SrTiO 3やBaTiO 3では,強誘電転移の前駆現象として転移温度近傍で逆空間の広い領域に格子振動のソフトニングが観測される. 28),29)われわれはSPring-8BL35XUにおいてX線非弾性散乱実験を行い, TbMnO 3のフォノンの分散関係を調べた. 30)非弾性中性子散乱ではフォノンとマグノンを厳密に区別するのは難しいが, X線を用いることによりフォノンのみを観測することができる.測定の代表例を図7に示す.磁気強誘電転移の前後においてフォノンの分散関係にソフトニングは観測されず,TbMnO 3では従来型の強誘電転移とは異なる機構で強誘電性が発現していることがわかる. RMnO 3の磁気強誘電転移では磁気秩序の形成が主体的であり,電気分極はその磁気構造に寄生したものだと考えてよさそうである.その電気磁気効果を解明するうえで,まずは磁気的なエネルギーのみを考慮して状態の変化を探っていけばよい.4.3磁場による電気分極回転のメカニズム電気分極回転の微視的な機構を調べるためには,磁場誘起相における磁気構造を明らかにする必要がある.TbMnO 3の磁場誘起強誘電相はTbをGdで置換することによりゼロ磁場でも現れる31)が,天然存在比Gd同位体の熱中性子吸収断面積は大きく,通常,中性子散乱による磁気構造の決定は不可能である.吸収断面積が小さな160 Gd同位体を用いて単結晶試料を育成しJRR-3の4軸回折計日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)図7非弾性X線散乱実験により得られたTbMnO 3のフォノンの分散関係. 30)(Phonon dispersion relations ofTbMnO 3 observed at 35 K and 11 K.)(FONDER)を用いた磁気構造解析を行った. 32)その結果,磁場誘起相ではゼロ磁場と同様に横滑り螺旋磁気構造をとり,螺旋の回転面がab面であることが明らかになった(図6a).また,ゼロ磁場の場合と同様にスピンカイラリティと電気分極の方向が対応していることを確認した.これらの結果から,磁場印加により螺旋面がbc面からab面に倒れて電気分極が回転することがわかった.しかし, 3.2で述べた一般論では, RMnO 3でa軸方向に磁場を印加した場合の電気分極の回転を説明することができない.横滑り螺旋磁気構造に回転面に垂直に磁場を印加する場合を考えると,図2cの1が示すように連続的にコーン型の横滑り螺旋構造に変化するだけで螺旋回転面の向きは変わらないはずである. 19)なぜRMnO 3ではa軸方向に磁場を印加すると螺旋回転面が倒れるのだろうか?4.4 Mnスピンと希土類磁気モーメントの相関第一感で見えるRMnO 3とMnWO 4の最も大きな違いは希土類磁性イオンDyもしくはTbの存在である.われわれは希土類磁気モーメントとMnスピン,電気分極との相関を調べるために, DyMnO 3の円偏光X線回折実験を行った. 23)測定はBL46XU, SPring-8にて行い,測定環境はMnWO 4の場合とほぼ同じである.強誘電相T=9 Kにおける測定結果を図8aに示す. MnWO 4と同様に単一ドメイン状態ではスピンカイラリティを反映してLHCとRHCの散乱強度が異なる.ただし, MnWO 4と比べて散乱強度の違いは小さく, Mnスピンの螺旋構造だけでは説明できない.図8bに示すようにDyの磁気モーメントがMn螺旋と同じ周期をもつ共線的構造をとっていると考えると実験結果を再現できる.ここで注目すべきは, Mnスピンのカイラリティが反転するとDyの磁気モーメントも反転している点である. Dyイオンは空間群Pbnmが有するc面鏡面対称の鏡面上に位置し,常誘電相では上下にある反平行なMnスピンが作る内部磁場が相殺する.強誘電相ではこの鏡面対称が破れて内部磁場が残り, Dyの磁気変調構造が誘起されると考えられる.電気分極がスピンカイラ89