ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

マルチフェロイックMnWO 4とRMnO 3(R=Dy or Tb)の構造物性研究図2(a)遷移金属イオンと酸素イオンによる三原子モデル.(b)横滑り螺旋磁気構造とスピンカレントモデルによる強誘電分極の発現.(c)横滑り螺旋磁気構造の磁場による変化.((a)The cluster model withtwo transition metal ions and an oxygen atom.(b)Ferroelectricity in a cycloidal spiral spin ordering.(c)Magnetic field induced changes of a cycloidal spiralspin ordering and its ferroelectric polarization.)と一致する. 7),20)3.3スピン偏極中性子線を用いたスピンカイラリティの観測われわれは,スピンカレントモデルを実験的に検証することを目的として, MnWO 4のスピン偏極中性子散乱実験を行った. 21)実験は日本原子力研究開発機構の実験用原子炉JRR-3, 5Gに設置されているスピン偏極中性子散乱用三軸分光器PONTA(Polarized Neutron Triple AxisSpectrometer)を用いて行った.原子炉にて生成された白色無偏極中性子ビームからPolarizerでスピン偏極単色中性子を取り出し,微小な誘導磁場により中性子スピンを散乱ベクトルに平行に向けて磁気散乱強度を観測する(図3a).π-flipperで中性子スピンを反転させ,その変化からスピンカイラリティに関する情報を得る.測定原理については著者による先行記事16)を参照いただきたい.各磁気秩序相におけるQ=(-1 0 2)±kにおける磁気回折のプロファイルを図3cに示す.スピン螺旋の大きさや楕円率などの情報が得られるが,ここで最も重要なのは電気分極方向とスピンカイラリティの関係である.強誘電性が単一ドメインのときAF2相(T=8 K)でπ-flipperがOn(中性子スピンが散乱ベクトルに反平行)の場合とOFF(中性子スピンが散乱ベクトルに平行)の場合で散乱強度が著しく異なる.また,電気分極を反転すると散乱強度の中性子スピン方向の依存性が逆転する.この結果は電場日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)図3(a)スピン偏極中性子散乱用三軸分光器の概念図.(b)MnWO 4における電気分極とスピンカイラティの関係.(c)MnWO 4の(-1 0 2)±kにおけるスピン偏極中性子磁気反射.((a)Schematic top view of atriple axis spectrometer for spin-polarized neutronscattering experiment.(b)A schematic view of obtainedrelation between ferroelectric polarization and spinchirality in MnWO 4.(c)Spin-polarized neutron scatteringintensities of magnetic satellites(-1 0 2)±k at 13K, 8 K, and 4 K.)参考文献21)より引用.により強誘電性とともにスピン螺旋構造の回転方向すなわちスピンカイラリティが単一ドメイン化していること,電場により電気分極を通してスピンカイラリティを反転可能であること,を示している.すなわち,スピンカイラリティと電気分極の符号が一対一で対応しており(図3b),スピンカレントモデルで予想される振る舞いと一致する.3.4円偏光X線を用いたスピンカイラリティの観測螺旋磁気構造におけるカイラリティは円偏光X線を用いても観測が可能である. 1988年にBlumとGibbsによって理論的に示されていたが, 22) X線の非共鳴磁気散乱は電子による散乱(トムソン散乱)と比べて非常に小さいため物性研究に用いるのは難しいと考えられてきた.われわれはSPring-8のBL19XLUで27 m長アンジュレータが発生する超高輝度硬X線を利用してMnWO 4のスピンカイラティの観測に成功した. 23)円偏光X線磁気回折によりスピンカイラティを定量的に測定できることを初めて示す結果であり,以下に紹介したい.用いた測定系は図4aに示すとおり,直線偏光X線を円偏光に変換するためにダイヤモンド単結晶を位相子として用いる以外は通常のX線回折実験と変わらない.試料を構成する元素の吸収端からX線のエネルギーhωが離れている場合(非共鳴),円偏光X線のスピンによる散乱断面積は以下のように表される.87