ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

佐賀山基,有馬孝尚有するBa 2Co 2Ge 2O 13) 7がある.単純な分類ができないものもあり,例えばRMn 2O 5(R=希土類元素)では1と2の機構が同時に電気分極を誘起していると考えられている. 14)また,電荷や軌道整列により強誘電性を発現する電子強誘電体では,電荷,軌道自由度とスピンとの相互作用を通じて電気分極と磁気秩序が結合し,電気磁気効果を大きくする. 15)2.マルチフェロイックにおける構造物性研究の意義構造物性研究とは,物質の性質をその構造,すなわち内在する自由度の周期性,対称性の静的あるいは動的特性を通じて理解しようとするアプローチであり,現代の物質科学においては必要不可欠である.通常の磁性体では磁気構造やその揺らぎ,誘電体では結晶構造と格子揺らぎに関する研究が該当するが,マルチフェロイックにおける電気磁気効果の発現機構を解明するためには,両面からのアプローチが必要になる.本稿では,横滑り螺旋磁性型マルチフェロイックの典型例であるMnWO 4とRMnO 3(R=Dyor Tb)に対して,われわれが中性子線と放射光X線とを用いて行ってきた構造物性研究を紹介する. RMnO 3は巨大電気磁気効果が最初に報告され最も詳細に研究されているマルチフェロイックである.しかしその奇妙な電気磁気効果の振る舞いは,いまだ完全な理解に至っていない.一方, MnWO 4は磁性イオンがMn 2+のみであるため比較的単純な描像でその電気磁気効果を議論でき,螺旋磁性と強誘電性の結合について基本的な知見を与えてくれる.はじめにMnWO 4を通して横滑り螺旋磁気構造が誘起する強誘電性の特性について述べ,その後, RMnO 3の特異な電気磁気効果における研究の現状を紹介する.本稿に先立ち,本稿著者による「スピンカイラリティの電場制御と中性子による検出」16)と「マルチフェロイク物質の構造物性研究」17)が本誌に掲載されているので,併せてご覧いただきたい.3.MnWO 43.1磁気強誘電性と磁場印加による電気分極回転MnWO 4は1865年にドイツの冶金学者Adolf Hubnerにより発見され, Hubneriteとして古くから知られてきた鉱石である. wolframite構造というMnO 6の一次元鎖構造で特徴付けられる単純な結晶構造を有する(図1a). Mnイオンは2価であり,電子5個がハイスピン状態(S=5/2)で3d電子軌道を占有する.温度を下げると磁気伝播ベクトルk=(-k x 1/2 k z)(k x~1/4, k z~1/2)(図1b)をもってMnスピンが段階的に秩序化する. 18)転移温度は高い順にT N=13.5 K, T 2=12.7 K, T 1=7.6 Kである.磁気構造は低温相(AF1(T<T 1))と高温相(AF3(T 2<T<T N))では共線的反強磁性,中間相(AF2(T 1<T<T 2))では螺旋構造をとる. 2006年にAF2相でb軸方向に自発電気分図1(a)MnWO 4の結晶構造.(b)ゼロ磁場下の螺旋回転面と波数ベクトルk.((a)Crystal structure of MnWO 4.(b)Spin rotational plane and propagation vector inthe P//b state(AF2 phase).)極が発生すること, 7),8) b軸方向に磁場を印加すると11 Tで分極がa軸方向に回転することが発見された. 7)3.2磁気強誘電性の発現機構MnWO 4における強誘電分極の発現とその回転機構は,桂(現学習院大)らによって提唱されたスピンカレントモデル5)を適用することにより説明することができる.隣接する磁性イオンにおいて非共線的にスピンが並ぶとき,誘起される局所電気双極子p ijは以下の式で表現され,( )P = Ae×S×Sij ij i j(1)ここで, Aはスピン軌道相互作用と交換相互作用に依存した係数, e ijは磁気イオンサイトiとjを結ぶ方向の単位ベクトルである(図2a).強誘電分極と直接結びつく磁気的な秩序化変数はS i×S jで定義されるベクトルスピンカイラリティ(以下,スピンカイラリティ)であり,その符号はスピン螺旋の回転方向に対応する.最も簡単な例として横滑り螺旋磁気構造にスピンカレントモデルを適用すると,誘起された局所電気分極が強的に秩序化して螺旋回転面に平行かつ伝播ベクトルに垂直に強誘電分極を発現する(図2b). MnWO 4のAF2相では磁化容易軸m easyとb軸が作る面内をスピンが回転していて(図1b),螺旋回転面が傾いた一次元横滑り螺旋構造とみなすことができる(図3b).式(1)を適用するとb軸方向の電気分極をよく説明できる.また,磁場による電気分極の回転は,螺旋回転面の変化によるゼーマンエネルギーの利得を考えることで理解できる(図2c). 19)螺旋回転面が磁場に垂直な状態が最も安定なので, 1螺旋回転面に垂直に磁場を印加すると連続的にコーン状の横滑り型螺旋構造になり,電気分極はそのまま残る. 2螺旋回転面と平行かつ伝播方向に垂直に磁場を印加すると,横滑り螺旋のまま回転面が90度倒れ,電気分極が90度回転する. 3進行方向に磁場を印加する場合,コーン状のプロパー型構造に変化して電気分極は消失する. MnWO 4の磁場による電気分極の変化はこの予想86日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)