ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

日本結晶学会誌56,85-91(2014)特集:物性研究における結晶学-物性のダイナミズムと結晶構造-マルチフェロイックMnWO 4とRMnO 3(R=Dy or Tb)の構造物性研究東京大学大学院新領域創成科学研究科佐賀山基,有馬孝尚Hajime SAGAYAMA and Taka-hisa ARIMA: Magnetic and Crystal Structural Studieson Multiferroic Materials, MnWO 4 and RMnO 3(R=Dy or Tb)Multiferroic materials in which ferroelectricity is induced by magnetic ordering have beenintensively investigated in the past decade. We performed magnetic and crystal structural studieson the typical multiferroic materials, MnWO 4 and RMnO 3(R=Dy or Tb)and established thatthe spin supercurrent or the inverse effect of the Dzyaloshinskii-Moriya interaction is the originof ferroelectricity in these materials by means of spin polarized neutron scattering and circularlypolarizedX-ray diffraction. It is also shown that magnetic moments of rare-earth ions play animportant role in incomprehensible electromagnetic effects in RMnO 3 .1.はじめにマルチフェロイックとは, ferroelectricity(強誘電性),ferromagneticity(強磁性), ferroelasticity(強弾性)の3つの強的秩序状態のうち複数を併せもつ物質のことである. 1)これら3つの強的秩序状態はそれぞれ電場,磁場,応力と直接結合していて外部から状態を制御することができるため,機能性材料として広く使われている.マルチフェロイックにおいて秩序化している複数の自由度が結合しているとき,より複雑な機能をもたせることが可能になる.例えば強弾性を示す強誘電体は圧電素子としてアクチュエーター,センサーなどに広く使われている.近年,物性物理の分野において(反)強磁性と強誘電性が共存する磁性強誘電体が盛んに研究されている. 2)厳密には前述の定義から外れるものの,磁性と強誘電性の結びつきが強く巨大な電気磁気効果を発現することからマルチフェロイックと呼ばれ,デバイスとして実用化が期待されている(本稿では以後,磁性強誘電体をマルチフェロイックと呼ぶ).電気磁気効果とは物質に磁場を印加することにより電気分極が,あるいは電場により磁化が変化する現象を指す.物質中における電気と磁気の結合は1960年頃に最初に報告され,以来研究が進められてきたがその効果の大きさは大変小さいものだった.ところが2003年にぺロブスカイト型マンガン酸化物において,それまでの常識を覆す巨大な電気磁気効果が木村(現大阪大学)らにより発見された. 3)この報告に触発されて次々と巨大電気磁気効果を示すマルチフェロイックが発見された.当初は電気磁気効果の発現温度が低くデバイスとしての実用化は日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)困難だと考えられたが, Z型六方晶フェライトで室温の巨大電気磁気効果が報告される4)など,近年の動作温度や感度の向上は著しく,さらなる進展が期待できる.現在報告されているマルチフェロイックを電気分極の発現機構によっておおまかに分類すると,1横滑り螺旋磁気秩序に起因する強誘電分極スピンが横滑り螺旋構造を形成して電気分極を誘発する.その微視的な機構としてスピンカレントモデル5)とジャロシンスキー・守屋相互作用の逆効果6)が提案されているが,定性的には同じ結果が導かれる. TbMnO 5) 3とMnWO 7),8) 4が代表例として挙げられ,後に詳しく記述する.2超交換相互作用の反作用に起因する強誘電分極一番単純な例としてよく挙げられるのは,磁性イオンとその配位子が形成する折れ曲がった一次元鎖上で,スピンが反強的に整列する場合である. 9)スピンの↑↑↓↓配列を考えると,超交換相互作用に起因する局所磁歪によって反転対称性が破れ強誘電性が誘起される.典型的な例としてE-type磁気構造を有する斜方晶ぺロブスカイトマンガン酸化物がある. 10)3磁性イオンと配位子における軌道混成の変調に起因する強誘電分極磁性イオンにおいて不対電子のスピンと電子軌道の異方性はスピン軌道相互作用によって結びついている.不対電子の軌道と配位子の電子軌道に混成が生じている場合,スピンの空間変調に対応して配位子が空間変調する.結果として格子系の対称性が破れ,強誘電分極が発生する.代表的な例としてproper型螺旋磁気構造を有するデラフォサイト型酸化物CuFeO 2, 11) CuCrO 12) 2や傾角反強磁性相を85