ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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概要

日本結晶学会誌Vol56No2

機能性バナジウム酸化物およびポリアニオン系の結晶構造,電子状態ならびにスピンダイナミクス図5Li 9V 3(P 2O 7)3(PO 4)2の(a)逆帯磁率と(b)化学量論組成のV 3+イオンのエネルギーダイヤグラム.(Inversemagnetic susceptibilities and energy diagram of V 3+of Li 9V 3(P 2O 7)3(PO 4)2.)1023~1123 K熱処理試料の結果.実線は中間的結晶場におけるバンブレック則の計算値,破線は元素欠損により生じたV 2+図6Li 9V 3(P 2O 7)3(PO 4)2における7 Li核のスピンダイナミクス.(Spin dynamics of 7 Li in Li 9V 3(P 2O 7)3(PO 4)2.)(a)νL=24.01 MHzにおける7 Li核の四重極効果と共鳴シフト異方性によるスピン格子緩和率.(b)それぞれの緩和機構から導出された相関時間.点線および破線は,それぞれτQ∝T 1.06 , T ?0.39 .の寄与を含む.は, V 3+の結晶場がラッセル-サンダース結合を壊すほどではない中間的場にあることを示し, V 3+をもつポリアニオン系の特徴の1つと考えられる.また熱処理温度の増加とともに,キュリー定数が増加する傾向を示す.結晶構造から, VO 6の局所対称性は三方対称的歪をもつ八面体で近似でき,化学量論組成の帯磁率は,Γ4の分裂幅を???10 3 cm ?1 ,三方対称軸に平行(垂直)なスピン軌道結合定数および有効ランデ因子をλ=106(50)cm ?1 ,α=3/2(1.1)とおくことで説明できる.図5bはそのときのエネルギーダイヤグラムである.基底状態E 0はスピン1重項で,その数cm ?1上に2重項が位置する.この分裂幅の大きさは,本系のVイオンの環境がバナジウムアンモニウム明ばん中におけるイオンに近いことを示唆しており,一般にV?O間の共有結合性が高い酸化物系と対照的である.なお,上記分裂幅とV 3+イオンの状態関数が熱処理温度で大きくは変わらないと考えれば,熱処理温度による帯磁率の相違(図5)は,少量のV 2+(S=3/2)イオンの存在に帰着できる.LiイオンのNMR共鳴線形の解析から,室温付近でのNMR磁化はすべてのLi席からの寄与であるのに対して,低温域では, Li3席からの寄与が顕著であることが期待される.またLiイオンのスピン格子緩和率から,本系における磁気的ゆらぎはイオン運動によるものであり,四日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)重極効果とVイオンからの双極子場が主な緩和機構であ?ることがわかる.図6aは四重極効果による緩和率(T 1 1Q)?と共鳴シフト異方性による緩和率(T 1 ?1A)を表し, T 1 1Qが?約30 Kで最小値をとるのに対して, T 1 1Aは温度の減少に伴って単調に減少する.また,それぞれの相関時間(τQ,τA)は図6bの振る舞いを示す.両者は約30 K以上の範囲で一致している.一方,低温域で両者の振る舞いが異なるが,これはLi3席からみたVイオン上の電子スピンの時間平均値の減少などに起因するので,両者は共通の相関時間(τc)で表されると考えてよい.τcは約30 K以上で温度にほぼ比例しており, Li3席のイオンがかなり拡散的であるのに対して,低温ではT ?0.39の依存性をもつ.Li脱離相の単結晶構造解析から, Liイオンは,少なくとも7.5 ? x ? 9の領域で一様に脱離・挿入されることが明らかにされている.特にx ? 8では,六角形トンネル中央に位置するLiイオンが脱離・挿入に関与することから,この濃度域におけるLiイオンの拡散経路はc軸方向に沿って伸びるトンネルであり, V 3+の結晶場は, x=9の場合と同様に中間的である.またLi脱離組成では,電子のホッピング性が増加し, V?O?P?O?V経路を介したカゴメ格子上の超交換相互作用が大きくなることで, x ? 8では1軸対称磁気異方性による強磁性が約4 Kで現れる.一方,本系のトンネルにはLiを過剰に挿入できることも,単結晶構造解析から解明されている.81