ブックタイトル日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

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日本結晶学会誌Vol56No2

小野田雅重Cu xV 4O 11の電気抵抗率と熱電能は, x 2.16において,T c1 ? 340 KからT c2 ? 120 Kの範囲でフェルミ液体的な振舞いを示し(図2a, b),その温度域以外は非金属的である. T c1, T c2は,後述のとおり,それぞれCuイオンの高速運動化と秩序化に起因する.電子相関によるキャリアの有効質量の増大を反映して,熱電能は室温でS ? 10 2μV K ?1の値をもち,熱電性能因子はS 2 /ρ?10 ?4 W m ?1 K ?2である.本系では,さらに上記不整合変調によるフォノン散乱の増強が期待できるので,有力な熱電変換材料の1つになる.Cu xV 4O 11の帯磁率は,およそ500 K以上と300 K以下の温度域で異なる振る舞いを示す(図2c).いずれの温度域も, Cu1席上の少数の孤立スピンに起因するキュリー型帯磁率と一定帯磁率(χ0)の和で表され,低温域と高温域でχ0が異なる.このχ0の変化は, VイオンのNMRから定量的に確かめられている. Cu 2+とV 4+両イオンに対して三次元の状態密度を仮定すれば,キャリアの有効質量は低温で7,高温で4程度となり, Cuイオン運動の大小と電子相関の大きさが関係づけられることが示唆される.Cuイオン運動を考慮に入れたオーバック機構に基づくEPR緩和の解析から,図3に示すとおり, x 2.16におけるCuイオンの高速運動およびx ? 2.3での運動抑制が示唆される.ν0と?は,振動電子状態の試行周波数(寿命の逆数)とエネルギーで,ν0∝? 3の関係を満たす. T c2以下でのg因子の異方性は動的ヤーン-テラー効果により理解できるのに対して, 120~300 Kでは,不整合構造変調による酸素イオン位置の変化とCuイオン運動が活性化されるためにg因子が減少し, T c1以上でほぼ自由イオン値に収束する傾向を示す. x ? 2.23では, 300 K付近で局所モーメントの寄与がCuからVイオンに移行するように見えるが,これは複合結晶性の変化(x 2.16で2部分構造, x 2.33で3部分構造)に帰着できるだろう.3.バナジウムポリアニオン3.1 Li xV 3(P 2O 7)3(PO 4)2二次電池正極活物質の母物質Li 9V 3(P 2O 7)3(PO 4)2は,1023 Kで熱処理した場合に化学量論組成に近く,より高温での熱処理では若干のリンおよび酸素欠損が生じやすい.図4が化学量論組成x=9の結晶構造である. ab面内に(VP2 2O 7)3(P1O 4)2層をもち,それはP1O 4四面体およびP2 2O 7グループと酸素を共有したVO 6八面体によって形成される.層間には, 3種類のLi席が存在し, Li1席が八面体配位を, Li2とLi3席が四面体配位をとる.またLi1イオンは積層によって形成されたc軸方向に伸びる六角形トンネル内に位置し, Li2, Li3イオンと比較して大きな温度因子を示す.結合長-結合強度則から, Vイオンの価数は3価, P1とP2は5価, Li1, Li2, Li3は,それぞれ0.5,0.9, 1価である.ここでLi1とLi2の価数が1価より小さいのは,それらの熱振動が高いことに対応する.Li 9V 3(P 2O 7)3(PO 4)2の帯磁率の温度依存性は,図5に示すように5 K以上でほぼキュリー則に従うが,キュリー定数はV 3+(S=1)の自由イオン値より約30%小さい.これ図3Cu xV 4O 11のスピンダイナミクス.(Spin dynamicsof Cu xV 4O 11.)(a)振動電子の励起状態の試行周波数.(b)振動電子エネルギー.(c)一定横緩和率.is(d)低温および高温相の等方的g因子g o isL , g oH .点線は補助曲線.図4 Li 9V 3(P 2O 7)3(PO 4)2の293 Kにおける結晶構造.(Crystal structure of Li 9V 3(P 2O 7)3(PO 4)2.)ab面投影図.八面体はVO 6,四面体はPO 4あるいはP 2O 7.80日本結晶学会誌第56巻第2号(2014)