ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

草本哲郎,神戸徹也,西原寛図2アゾベンゼン部位を有する光応答性白金ジチオレン錯体の3重安定性.(Tristability of light-responsivePlatinadithiolene complex with azobenzene units.)図1(a)金属ジチオレン錯体の化学構造. Mは金属イオン, L-Lは対配位子を示す.(b)ジチオレン配位子の酸化還元挙動.(c)Ni(bdt)2のLUMO(最低空軌道)の電子密度分布.分子全体に広がったπ軌道へのNi原子の3d電子の寄与が確認できる.((a)Chemical structure of metalladithiolene complex.M and L-L indicate metal ion and counter ligand,respectively.(b)Redox behavior of dithiolene ligand.(c)Electron density distribution of LUMO(LowestUnoccupied Molecular Orbital)of Ni(bdt)2.)配位子をつなぐM-S結合が共有結合性を有するため,金属イオンのd軌道とジチオレン配位子のπ軌道が混成(ハイブリッド)した分子軌道を形成する(図1c).金属イオンと有機分子の両方の電子的性質を獲得した結果,超伝導,強磁性からエチレン分子の可逆な脱吸着など,無機から有機に広がる幅広い物性を示すことが明らかにされてきた.われわれの研究室では,高次機能化された金属ジチオレン錯体の電子状態を解明し,望みどおりに制御することで,金属ジチオレン錯体を舞台とした新奇現象や物性を創出することを目的として研究を行ってきた.研究の方法論として, 1金属ジチオレン錯体に対し,新たな機能分子ユニットを導入する=ハイブリッド化, 2金属ジチオレン錯体を基盤として金属イオンを集積する=クラスター化,という2つに力を注いできた.以降これらの研究成果について説明する.2.2ハイブリッド化による新機能創出金属ジチオレン錯体に対し,新たな機能分子ユニットを適切な分子設計に基づいて導入することで,ジチオレン錯体や機能分子ユニット単体では実現できなかった新たな機能の発現が期待できる.われわれは光応答性, 3)磁性, 4),5)電子機能性6),7)を付与したジチオレン錯体を新規に合成し,それらが示す物性や電子状態を明らかにした.光応答性Ptジチオレン錯体Pt(azo1bpy)(azo2bdt)は,フォトクロミック分子(光に応答して分子構造や色を変化させる分子)であるアゾベンゼン骨格を分子内に2つ有している(図2).本来アゾベンゼン分子は紫外光(365 nm)の図3 tempodtとPt(t Bu 2bpy)(tempodt)の化学構造およびHOMO, SOMO周辺の分子軌道.(Chemical structuresand molecular orbitals around HOMO andSOMO of tempodt and Pt(t Bu 2bpy)(tempodt).)照射により, trans→cisの光異性化を示す.しかしながらPt(azo1bpy)(azo2bdt)のazo2(ジチオレン配位子側についたアゾベンゼン部位)は,紫外光ではなく紫色光(405 nm)でtrans→cis異性化を示すことがわかった.これは,錯体のPtジチオレン部位に広がったπ軌道とアゾベンゼン部位を中心とするπ*軌道間の電荷移動相互作用(MLCT相互作用)に起因している.この結果, Pt(azo1bpy)(azo2bdt)では,照射する光の波長を適切に選ぶことにより, 3つの状態を選択的かつ可逆にスイッチングできることを明らかにした. 3)われわれは, TEMPOラジカルを含有する常磁性配位子tempodt(R)2およびそのPtジチオレン錯体Pt(t Bu 2bpy)(tempodt)を合成した(図3). 4) TEMPOは, N-O結合上にS=1/2の不対電子(スピン)を有する安定有機ラジカルである.一般に有機ラジカルの不対電子が存在する分子軌道(SOMO, singly occupied molecular orbital)は,図3のtempodt(R)2が示すように,被占有分子軌道の中で最も高いエネルギー準位に位置する.よって有機ラジカルは酸化または還元により不対電子を失い,非磁性となる.しか324日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)