ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6
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日本結晶学会誌Vol55No6
低角散乱電子を用いた軽元素の実空間観察でΣ値は粒界の格子整合性を示す指標であり,Σ値が低ければ低いほど格子整合性が高く,エネルギー的に安定な粒界であることを示している.この像では, Al原子コラムに加えて酸素原子コラムまでもが明瞭に観察できており,粒界コア近傍においてもその位置を像から直接同定することができる.特に図中矢印で示したように,粒界コアには酸素サイトが周期的に存在していることがわかる.この周期的な酸素サイトは第一原理計算によって安定構造と予測された酸素終端粒界構造(図中にオーバーレイした粒界構造モデル)とよい一致を示すことがわかった.このように, ABF STEMを用いることにより,粒界や界面における定量的な構造解析も可能になっている. 7)3.2 Li系電極材料の局所構造解析リチウムイオン電池はスマートフォンやパソコンなどの電子機器電源として社会の隅々に浸透し,現代社会に不可欠な基盤技術の1つといっても過言ではない.近年では,ハイブリッド自動車や電気自動車用電源としての応用も期待されており,大容量・高出力化を目指した研究開発が世界中で行われている.リチウムイオン電池材料の開発には,材料・デバイス中のLiイオン挙動を本質的に解明することがきわめて重要であり,電子顕微鏡によるLiイオンの直接観察が待望されていた. 2009年以来,ABF STEMによるLi系電極材料中のLi原子コラムの直接観察が相次いで報告され, 8)-10) Li原子を直接観察しながら材料評価・解析を行うことが可能になった.図6にHuangらによって報告されたLiCoO 2をABF STEMにより観察した結果を示す. 10)像中に示した結晶構造モデルからも明らかなように, Li原子コラム位置に明瞭な暗コントラストが観察されていることがわかる.この結果は像シミュレーション結果ともよい一致を示しており, ABFSTEMによるLi原子の直接観察が可能であることを示している.最近ではABF STEMによるLi原子直接観察の最適条件,像形成理論に関する詳細な研究成果が報告され始めている. 11)今後は本手法がLi系電極材料の界面構造解析などに積極的に応用されることが期待される.3.3水素化物中の水素原子コラムの直接観察水素化バナジウム(VH 2)は水素吸蔵材料としての応用が期待されており,材料内部におけるH原子の吸放出挙動がきわめて重要な材料学的問題である. VH 2の結晶構造はV原子による副格子が面心立方構造を有しており,その四面体空隙をHが占有する構造となる.この結晶を[001]方向から観察したHAADF像およびABF像(ともにフィルター処理を施している)を図7に示す. 12) HAADF像中の明るいコントラストはV原子の存在位置に対応しており, ABF像ではその間に存在するH原子コラムの存在位置に弱い暗コントラストが形成されていることがわかる.このコントラストがH原子コラムの存在に起因す図7[001]方向から同時観察したVH 2の(a)HAADF像および(b)ABF像. 12)(Simultaneous(a)HAADF and(b)ABF STEM images of VH 2 observed from[001]direction.)どちらも像のノイズを低減するフィルタリング処理を施している.図6LiCoO 2結晶のABF STEM像. 10)(ABF STEM imageof a LiCoO 2 crystal.)図8Bloch wave法に基づくABF STEM像シミュレーション結果. 12)(Systematic image simulation of ABFSTEM images based on Bloch wave method.)(a)VH 2,(b)VH 2から完全にH原子を取り除いたモデルを用いた計算結果.日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)365