ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

ページ
48/72

このページは 日本結晶学会誌Vol55No6 の電子ブックに掲載されている48ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

日本結晶学会誌Vol55No6

ブックを読む

Flash版でブックを開く

このブックはこの環境からは閲覧できません。

概要

日本結晶学会誌Vol55No6

柴田直哉,フィンドレイスコット,幾原雄一つまりABF法は, HAADF法と同様に像から直接原子構造を議論することができる手法であるといえる.このようなABF像形成のメカニズムに関してはすでに詳細な報告および解説が存在するため, 3),4)ここではABF像形成メカニズムのエッセンスのみを概説する.図4に軽元素および重元素原子コラムからの透過散乱電子とABF検出器との位置関係を模式的に示す.まず,(a)に示す原子コラム間に電子プローブを入射した場合,電子プローブは試料下面に向かって伝播し,特定の原子コラム上をチャンネルせずABF検出器で検出される.一方(b)に示す軽元素原子コラム上に電子プローブを入射した場合,入射電子は原子コラム上を鋭くチャネリングしながら試料下面へと伝播する.しかし,原子番号が小さいため高角散乱される電子の割合が少なく,入射電子の大部分が低角散乱領域に局在する.さらに,その強度はABF検出器の内孔部にピークをもつため,大部分の電子はABF検出器の内孔を通過し検出されない.ゆえに,(a)の原子コラム間に電子プローブを入射した場合に比べて原子コラム直上に入射した場合ABF信号は相対的に弱くなり,原子コラム位置が暗コントラストで結像される(図中の検出器面上での収束電子回折図形とABF検出器の関係も参照).また,(c)に示す重元素原子コラム上に電子プローブを入射した場合,入射電子は原子コラム上を伝播する過程で高角領域に強く散乱される.重元素ではこのような高角散乱電子の寄与が支配的となりABF検出器で検出される信号が極度に弱まり,原子コラム位置がバックグラウンドに対して暗コントラストで結像される.つまり, ABFにおいてはすべての原子コラムの位置が暗コントラストで結像されることになる.またABF法では暗い像コントラスト形成の主要因が軽元素,重元素で異なる点が特徴であり,軽元素と重元素の同時観察を可能にする要因であると考えられる.反面,このような特徴はHAADFのような原子番号に対する像コントラストの簡単なスケーリング則を成り立たせない原因ともなりうるが,詳細な理論計算による試算では,特殊な条件下においては像コントラストが約Z 1/3の原子番号依存性を有する可能性が示されている. 3)3.ABF法の応用例3.1セラミックス界面のABF観察粒界や異相界面などの界面構造はセラミック材料の特性と密接に関連している.セラミックスは通常酸化物や窒化物などの化合物結晶から構成され,その界面形成には軽元素原子である酸素原子や窒素原子が重要な役割を担っている.これまで, HAADFを用いた直接観察により,界面の原子レベルの構造や界面に偏析した不純物元素の存在状態に関して多くの知見が得られてきたが,界面を構成する軽元素原子がどのような構造を有するのかを直接的に観察することはきわめて困難であった.収差補正TEMを用いた界面の軽元素原子観察法も提案されているが,双晶(Σ=3粒界)のようなきわめて整合性の高い界面の観察に留まっているのが現状である. 5)そこで,より複雑なセラミックス界面構造に関してABF STEMによる界面軽元素原子構造直接観察を試みた例を以下に示す.図5にAl 2O 3Σ=13粒界のABF STEM像を示す. 6)ここ図4ABF STEM像形成メカニズムの模式図.(Schematicillustration of ABF STEM image formation mechanism.)(a)電子プローブを原子コラム間に入射した場合.(b)電子プローブを軽元素コラム直上に入射した場合.(c)電子プローブを重元素コラム直上に入射した場合.図面下部の回折図形はSrTiO 3[110]入射の場合を示す(試料厚14 nmを仮定).図5Al 2O 3Σ13粒界のABF STEM像. 6)(ABF STEM imageof an Al 2O 3Σ13 grain boundary.)像中の粒界原子構造およびシミュレーション像は第1原理計算により安定構造と予測された原子構造およびそれを用いたSTEM計算像に対応.364日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)