ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6
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日本結晶学会誌Vol55No6
日本結晶学会誌55,362-368(2013)最近の研究から低角散乱電子を用いた軽元素の実空間観察東京大学大学院工学系研究科総合研究機構,科学技術振興機構さきがけ研究員柴田直哉Monash Universityフィンドレイスコット東京大学大学院工学系研究科総合研究機構, 7ファインセラミックスセンターナノ構造研究所,東北大学原子分子材料科学高等研究機構幾原雄一Naoya SHIBATA, Scott D. FINDLAY and Yuichi IKUHARA: Real-Space Imaging ofLight Elements by Annular Bright-Field Scanning Transmission Electron MicroscopyIn this review, we report the basics and application of annular bright-field(ABF)imagingin scanning transmission electron microscopy(STEM), which enables the direct imaging of lightelement atomic columns in crystals. In addition, we explain a recent technique for furtherenhancing the image contrast of light element columns, extending the idea of ABF STEM.1.はじめに軽元素は先進エネルギー材料,環境材料に不可欠の構成元素であり,そのミクロな挙動は材料特性と密接に関連する.すなわち,材料中の軽元素の構造,振る舞いを原子スケールで直接観察することができれば,先進材料開発分野に画期的なブレークスルーをもたらすことが期待できる.電子顕微鏡分野ではこれまで,材料中の軽元素原子を直接観察するためのさまざまな方法が検討されてきた.しかし,軽元素原子は電子散乱能が小さく,原子レベルの観察はきわめて困難であるとされてきた.特に,重元素と軽元素が混在する化合物中の軽元素の原子観察は非常に困難であった.近年,収差補正機を搭載した走査型透過電子顕微鏡(STEM)において,低角に散乱された電子を選択的に検出する環状明視野(annular bright-field:ABF)STEM法が考案され,酸化物や窒化物中の酸素や窒素原子サイトをほかの重元素原子と同時に明瞭に観察できることが示された. 1)-3)本手法は,従来の高角度環状暗視野(HAADF)法や電子エネルギー損失分光法(EELS),エネルギー分散型X線分光法(EDS)などと併用することも可能であり, 1回のスキャンで多くの情報を同時取得できる可能性がある.そこで本稿では, ABF STEM法の概要と本手法を応用した材料アプリケーションについて紹介する.で検出しモニター上にその強度分布として原子分解能像を形成する手法である.一般にHAADF条件では,検出器の内角をプローブ収束角の2倍程度以上にとり,高角散乱された電子のみを選択的に検出するよう設定する.これにより,電子プローブが原子コラム直上に存在するときに強い電子散乱が起こることを利用し,原子コラム位置を明るい輝点で結像することができる.また,そのコントラスト2.ABF STEM法の概要とその特徴2),3)図1にABF STEM観察における検出器の配置を模式的に示す.比較のために従来のHAADF検出器も示す.STEM法は原子レベルに細く絞った電子プローブを試料上で走査し,試料上の各位置で透過散乱した電子を検出器図1STEMにおけるABFおよびHAADF検出器の配置の模式図.(Schematic illustration of ABF and HAADFdetector in STEM.)362日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)