ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6
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日本結晶学会誌Vol55No6
小原真司,藤原明比古,増野敦信,臼杵毅6.今後の展開図5 RMC-DFTシミュレーションから得られた64CaOガラスのHOMO(a)とLUMO(b). h 1は空隙付近に存在するLUMO.(c)64CaOガラスから酸素1個を取り除き, 2個の過剰の電子を存在させ,エレクトライドガラスをシミュレートした結果. 2つの電子は同じスピンをもち,かつ異なった空隙(h 1とh 2)に存在する.(d)h 2のスピン密度とその周りのかご状構造(図5cの拡大). Al:灰色, Ca:黄緑, O:赤.(Close-up visualizations of(a)the HOMO and(b)the LUMO single-particle electron states in the64CaO glass. h 1 labels the cavity(cage)occupied byLUMO.(c)Simulation box and the electron spindensity of the 64CaO glass with one oxygen subtractedat h 2 with two additional electrons.(d)Cagestructure around the spin-density of one electroncorresponding to the h 2 cavity(close-up from c). Al,gray;Ca, green;O, red.)(LUMO)を調べた.その結果, HOMOは原子間に存在している(図5a)のに対し, LUMOは空隙に存在している(図5b)ことが明らかとなった.同様に, LUMOよりもエネルギー順位が1つ高い軌道も空隙を占有していた.還元雰囲気下で酸素を抜き取って過剰の自由な電子が生まれた場合に,この空隙付近のLUMOがどのように振る舞うかをDFT計算により調べた.ランダムに酸素を1個抜き取って,種々のスピンの向きで計算を試みた結果,酸素を抜き取った時に生成する自由な電子2個は,同じ向きのスピンをもち, 1個ずつLUMO(図5cのh 1)およびLUMOよりも1つエネルギー順位が高い軌道(図5cのh 2)を占有する.また,それぞれが空隙に存在することにより,ガラス構造がよりエネルギー的に安定化することが明らかになった.図5dにh 2のスピン密度を可視化したものを示すが,これはかご状構造の中に溶媒和した電子と捉えることができる.すなわち,エレクトライドガラスにおいて電子はかご状構造に溶媒和するという考えを支持する結果となった.本稿では,高輝度放射光実験,中性子回折実験とRMCモデリング,大規模理論計算を組み合わせれば,非周期系材料の原子配列のみならず電子状態に踏み込んだ解析ができること,そして非晶質材料の機能発現メカニズムを考える重要な知見を与え得ることを紹介した.本研究の意義は,アルミン酸カルシウムガラスの特異な構造・電子構造の理解に加え,非周期系材料の重要な構造的特徴は二体相関に現れず,それを捉えるためには大規模理論計算との組み合わせが必要であることを明示した点にある.今後,非周期系材料の構造物性をさらに発展させていくには「二体相関で捉えられない相関」を実験的に取得する新たな研究手法の開発が望まれる.現在,大型放射光SPring-8キャンパス内にSPring-8に隣接して, X線とレーザーの特性を併せもつ優れた光であるX線自由電子レーザー(X-ray Free Electron Laser, XFEL)施設SACLAが動き出している. SACLAが発生するXFELの特徴は,きわめて明るいこと(SPring-8のX線の1000億倍の明るさ),短パルスであること(発光時間が10兆分の1秒),コヒーレント(波が完全に揃っている)であることである.これらの特徴により,化学反応や高速相変化などを10兆分の1秒という超短時間のコマ送りで観察することが可能になっており,数々の新しい成果が創出されつつある.非晶質材料の研究においては,融体・ガラスの構造の差を平均構造として調べるのみではなく,その構造変化のダイナミクスを調べるとともに高温熱物性データとの詳細な比較が必要になってきている.さらに,先に述べたように非周期系材料に存在する二体相関で捉えられない相関を浮き彫りにするには,コヒーレントX線の利用が必要不可欠24)である.以上の観点から, SACLAの発生するXFELやSPring-8の次期計画SPring-8 IIで得られるであろう高エネルギーコヒーレント光は強力なツールとなる.今後SPring-8や大強度パルス中性子施設J-PARCとSACLAの併用が非晶質材料の研究に大きな進歩をもたらすことを期待する.謝辞本研究については,フィンランドタンペレ工科大学のJ. Akola氏をはじめとする多くの研究者との共同研究のもと遂行された.また,本研究は, JST戦略的国際科学技術協力推進事業日本-フィンランド研究交流,科学研究費補助金(No.21・09813, S-10147)によって支援されたものである.文献1)W. H. Zachariasen: J. Am. Chem. Soc. 54, 3841 (1932).2)K. -H. Sun: J. Am. Ceram. Soc. 30, 277 (1947).360日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)