ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6
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日本結晶学会誌Vol55No6
日本結晶学会誌55,356-361(2013)最近の研究からアルミン酸カルシウムガラスにおける溶媒和電子の形成を促すかご状構造(公財)高輝度光科学研究センター利用研究促進部門小原真司,藤原明比古東京大学生産技術研究所山形大学理学部物質生命化学科増野敦信臼杵毅Shinji KOHARA, Akihiko FUJIWARA, Atsunobu MASUNO and Takeshi USUKI:Cage Structure for the Formation of Solvated Electrons in CaO-Al 2 O 3 GlassesWe have constructed structural models of CaO-Al 2 O 3 glasses using combined densityfunctional theory-reverse Monte Carlo simulations and obtained structures that reproduceexperimental data(X-ray and neutron diffraction, EXAFS). The O-Ca and O-Al coordinationnumbers are similar in the eutectic 64 mol%CaO(64CaO)glass[comparable to 12CaO・7Al 2 O(C12A7)], 3 and the glass structure comprises a topologically disordered cage networkwith large-sized rings. Analysis of the electronic structure reveals that the lowest unoccupiedmolecular orbitals occur in cavity sites, suggesting that the C12A7 electride glass can hostsolvated electrons. Calculations of 64CaO glass structures with few subtracted oxygen atomsconfirm this observation.1.はじめにガラスはわれわれの生活に欠かせない機能性材料であるが,ガラス形成のメカニズムはいまだ解明されていない点が多い. Zachariasen 1)やSun 2)らによって提案された酸化物ガラスにおけるガラス形成物質の条件は(1)酸素イオンの周りのカチオンの配位数は2(2)カチオンの周りの酸素イオンの数は少なく, 3または4(3)カチオンを中心とした酸素配位多面体は,強い共有結合により,互いに頂点酸素を共有して環状の三次元網目構造を形成するである.このガラス形成則は,その後のガラス科学の枠組みを決定づけたが,現在ではその形成則には当てはまらないガラスも報告されている.このため,新規機能性ガラスの組成開発設計指針を確立することが重要であるが,これまで,ガラスの機能発現メカニズムを原子・電子レベルで予測することは困難とされてきた.近年,放射光・中性子といった量子ビームを用いた実験手法と大規模理論計算を組み合わせることにより,ガラスの機能発現メカニズムを原子・電子レベルで明らかにする試みが報告されてきている. 3)-7)本研究では,アルミン酸カルシウム(CaO-Al 2O 3)に注目した. CaO-Al 2O 3ガラスにはZachariasen 1)の定義するガラス形成物質(SiO 2, B 2O 3, P 2O 5, GeO 2, As 2O 3)は含まれていないが,中間酸化物と呼ばれるAl 2O 3成分がAlO 4四面体の酸素を頂点共有することによりガラスネットワークを形成する.しかしながら,ガラス形成能が最も高い組成は,共晶点となる64 mol%CaO-36 mol%Al 2O 3(64CaO)組成であり,よりAl 2O 3成分の多い50 mol%CaO-50 mol%Al 2O 3(50CaO)組成は, 64CaO組成に比べてガラス形成能ははるかに低い.よって, 50CaOは通常の溶融急冷法でバルクガラスを合成することは困難である.そこで, 64CaOガラスと50CaOガラスの構造について,実験と計算を組み合わせた構造解析を行い,ガラス形成能とガラス構造の関係について調べた.さらに, 64CaO組成は,新しい電子材料として注目されている12CaO・7Al 2O 3(C12A7)とほぼ組成が一致することも特筆すべき点である.最近,細野らは, C12A7組成の融液を,強い還元雰囲気下で凝固させると,エレクトライドガラスとなることを報告した. 8)エレクトライドガラスは,電子が溶媒和した褐色のガラスで,金属性を示し,ガラス転移温度が還元されていないC12A7ガラスよりも低いなどの性質をもつ.エレクトライドガラスの形成メカニズムとして,電子が溶媒和することによるガラス構造の安定化が提案されている.本稿では,これについて電子状態からの考察を試みた.2.実験手法Al 2O 3成分の多い50CaO組成は,共晶組成である64CaO組成に比べてガラス形成能がはるかに低く,通常の溶融急冷法でバルクガラスを合成することが困難である.そこで,無容器法9)-11)を用い,直径約2 mmの50CaO, 64CaO組成のガラス玉の合成を試みた.無容器法は,静電気や不活性ガスにより,容器なしで試料を保持する手法である.356日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)