ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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概要

日本結晶学会誌Vol55No6

上村理,郷原一寿図9単層カーボンナノチューブでの原子分解能化回折イメージング実証結果.(Verification of atomicresolutiondiffractive imaging.)(a)再構成像,(b)シミュレーション結果,(c)原子配列モデル,(d)ラインプロファイル比較.像と原子配列モデル図をそれぞれ図9b, cに示した. Exitwave振幅像と原子配列モデル図の導出には,回折パターンから導出したカイラリティと試料傾斜角を反映している.これらの比較から,得られた再構成像は, SWCNTの原子配列を示しているとみなせる.また,灰色と黒の矢じりで示したコントラストは,それぞれ孤立した炭素原子と2個の炭素原子がオーバーラップしたものであることが,原子配列モデルとの比較からわかる.すなわち,得られた再構成像の強度分布は,炭素原子1個と2個の違いを識別できる程度の定量性があることがわかった.さらに,図9aと図9bそれぞれの線AA’およびBB’に沿った強度分布(ラインプロファイル)を図9dに示した.実験結果(図9a)とシミュレーション(図9b)とにわずかな強度の違いが見られるものの,これらは有意な差とは言い難い.今後さらに実験精度を上げることで,炭素原子1個と2個の違い以上に定量性を高めることが可能になると考えている.4.おわりに以上のように,ここでは軽元素で構成された材料に対して低ダメージかつ原子分解能でのイメージングを可能とする回折イメージング技術について述べた.なお,これまで電子回折イメージングによる原子分解能での実証例はいくつかあるものの,まだ欠陥やグレインバウンダリーなどの非周期な要素を原子分解能で再構成した例はみられていない.これには,原子配列を示す強い回折スポットと,非周期構造に由来する回折強度の両方を,高いダイナミックレンジで記録することが重要になると考える.また回折イメージングのもう1つの特徴は位相像が得られることであり,電場や磁場の可視化を行える可能性がある.電場・磁場の可視化は電子線ホログラフィが有力なツールであるが,回折イメージングを用いた位相像再生でも,楔形Siの厚さ変化が示される30)など,成果が出始めている.原子分解能イメージングとともに,位相像再生は電子回折イメージングの今後重要な方向であると考える.レンズを極力用いない回折イメージングを活用することで,よりシンプルな装置構成で原子分解能が得られ,かつ,ナノチューブのような立体的で複雑な構造を有する試料に対しても一様な分解能を得られること,炭素原子1個と2個の違いを強度情報が区別できる定量性を有することは,今後の材料研究や開発において有用なツールとなりえる要素であると考えている.今後,軽元素材料を中心として新たな材料開発およびデバイス開発に,走査電子顕微鏡のメリットと回折イメージングによる原子分解能構造解析や位相像の再構成とを合わせた本手法および装置が,貢献できることを期待する.謝辞本研究における実験データの取得および計算機処理は,日立製作所中央研究所・土橋高志氏,北海道大学・前原洋祐氏との共同研究によるものである.また,原子分解能実証実験で用いた単層カーボンナノチューブは,名古屋大学・篠原久典教授のグループで作製された.この研究の一部は,独立行政法人科学技術振興機構(JST)の重点地域研究開発推進プログラム(育成研究)により行った.文献1)W. Friedrich, P. Knipping and M. von Laue: Sitzungsberichteder Mathematisch-Physikalischen Classe der Koniglich-BayerischenAkademie der Wissenschaften zu Munchen 303 (1912).2)T. Terada: Nature 91, 135 (1913).3)T. Terada: Nature 91, 213 (1913).4)W. L. Bragg: Proc. Cambridge Philos. Soc. 17, 43 (1913).5)J. D. Watson and F. H. Crick: Nature 171, 737 (1953).6)R. Franklin and R. G. Gosling: Nature 171, 740 (1953).7)D. Sayre: Acta Crystallogr. A 5, 43 (1952).8)R. W. Gerchberg and W. O. Saxton: Optik 35, 237 (1972).9)J. R. Fienup: Appl. Opt. 23, 2758 (1982).10)J. Miao, P. Charalambous, J. Kirz and D. Sayer: Nature 400,342 (1999).11)Y. Takahashi, Y. Nishino, T. Ishikawa and E. Matsubara: Appl.Phys. Lett. 90, 184105 (2007)12)Y. Takahashi, N. Zettsu, Y. Nishino, R. Tsutsumi, E. Matsubara,T. Ishikawa and K. Yamauchi: Nano. Lett. 10, 1922 (2010).13)D. Shapiro, P. Thibault, T. Beetz, V. Elser, M. Howells, C. Jacobsen,J. Kirz, E. Lima, H. Miao, A. M. Neiman and D. Sayer: Proc.Nat. Sci. Acad. 102, 15343 (2005).14)C. Song, H. Jiang, a. Mancuso, B. Amrbekian, L. Peng, R. Sun,S. S. Shah, Z. H. Zhou, T. Ishikawa and J. Miao: Phys. Rev.Lett. 101, 158101 (2008).15)Y. Nishino, Y. Takahashi, N. Imamoto, T. Ishikawa and K.Maeshima: Phys. Rev. Lett. 102, 018101 (2009).16)H. Jiang, C. Song, C. -C. Chen, R. Xu, K. S. Raines, B. P. Fahimian,C. -H. Lu, T. -K. Lee, A. Nakashima, J. Urano, T. Ishikawa, F.Tamanoi and J. Miao: Proc. Nat. Acad. Sci. 107, 11234 (2010).354日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)