ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

日本結晶学会誌55,350-355(2013)最近の研究から低エネルギー電子回折イメージング㈱日立製作所中央研究所北海道大学大学院工学研究院応用物理学部門上村理郷原一寿Osamu KAMIMURA and Kazutoshi GOHARA: Low-Energy Electron Diffractive ImagingUnlike conventional crystallography techniques, diffractive imaging becomes possible toanalyze the specimen structure of non-crystalline materials. Combined low-energy electronbeam with diffractive imaging, low-damage imaging technique has been developed for theanalysis of light element material that is susceptible to damage due to beam. Here, it isdescribed with respect to results of verification of low-energy electron diffractive imagingand atomic resolution imaging with carbon nanotubes as specimens. Furthermore, features ofelectron diffractive imaging in comparison with X-ray and our approach and efforts to dateare described in this article.1.はじめに回折パターンの発見からおおよそ100年が経過し, 1)-4) X線結晶構造解析に代表される回折パターンを用いた手法は,さまざまな材料の構造を明らかにしてきた.この構造解析では,その材料が結晶化できることが前提であり,DNAの構造解析も,結晶化して得られた回折パターンに基づいている. 5),6)一方ここで扱う回折イメージング(もしくは回折顕微法)は,結晶・非結晶ともに適用できる解析手法である. 7)-10)この手法では,特定の回折スポット強度を抽出するのではなく,得られた回折パターン全体を計算機処理して試料構造像(再構成像)を導出する.これにより,周期構造のみならず非周期構造の再構成も可能となる.回折イメージングは, 1952年に可能性が提唱されたものの, 7)材料科学への適用は1999年の実験的検証10)以降である.回折イメージングの実証には,処理能力の向上した計算機(コンピュータ)と,高輝度で干渉性の高いビームが得られる第3世代の放射光が貢献したと考えられる.その後X線を用いた実証例が数々と出されており,析出物や微粒子の三次元構造再構成, 11),12)ウイルス, 13),14)染色体, 15)細胞16)など,無機材料およびライフサイエンス分野におけるさまざまな材料での実証結果が示されてきた.電子ビーム(電子顕微鏡)の分野では, 2002年に2つの微小開口を試料としてなされた原理検証17)が始まりで,翌年には二層カーボンナノチューブ(DWCNT)を用いた実証結果が示された. 18)われわれは2008年に高速反射電子回折(RHEED)装置を改造したプロトタイプ実験機を用い,多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を試料として低エネルギー(20 keV)での実証を行った. 19)その後電子ビームの分野でも,いくつかのグループが実証結果を示している. 20)-30)本手法による再構成像の分解能は,取得する回折角で決まる.そのため,高分解能レンズを製作することが困難なX線でも原子レベルの分解能を得る可能性がある.電子ビームでは,収差補正器の発展にも支えられ,原子分解能を得ることが一般化しつつある.しかし,近年の省エネルギー省資源に向けた取り組みにおいては軽元素材料の活用が重要となっており,試料ダメージを低減できる低エネルギー電子ビームに対しては,高次収差を低減する必要があるなど,収差補正器でもさらなる困難さが伴っている.回折イメージングはレンズ収差に影響されない高分解能化が可能である特徴に着目し,われわれは,低エネルギー電子ビームでの回折イメージングに取り組んできた.本稿では,電子ビームでの回折イメージングの概要を述べ,われわれがこれまで取り組んできた低エネルギー電子ビームでの回折イメージングの実証結果と,それを実現するために施した工夫に関して述べる.なお,装置開発における詳細は,本稿とほぼ並行して準備をしている参考文献31)も参考にしていただけると幸いである.2.回折イメージング図1に回折イメージングの概念図を示す.回折イメージングは,試料を散乱した回折波が形成する回折パターンを記録し,記録の際に失われる位相情報を再生するためにフーリエ反復位相回復法を適用した計算機処理を行う.これにより,試料構造像(再構成像)を得る手法である.透過電子顕微鏡の場合,回折パターンは通常対物レンズの後側焦点面に形成される.しかしX線の場合と同様,電子ビームを用いても試料から十分離れた位置に検出器を350日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)