ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6
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日本結晶学会誌Vol55No6
道上勇一,菅家康,森孝雄,君塚昇ターンに漸近してくる.このことは,両者の構造の関連性を考慮すれば当然のことと理解される. Ga 2O 3(ZnO)mの場合, mが大きくなるとほとんどの回折ピークが酸化亜鉛のものとほぼ重なってしまう.そのため,ホモロガス相の存在を知らずにその回折パターンをみれば,酸化亜鉛(ウルツ鉱型構造)に未知の相がほんのわずか混在している,と誤解してしまうであろう.このように,母構造からホモロガス相への変化は粉末X線回折では明瞭にとらえにくい.したがって,ドープ量の変化に対してある点から急激に特性が変化する場合などはホモロガス相の生成を疑ってみる必要がある.はじめに述べた単位胞レベルの双晶の典型としてPbS-Bi 2S 3系鉱物群が知られており,これに対する高次元構造モデルが報告されている. 7)この場合もカチオン(鉛およびビスマス)とアニオン(硫黄)がそれぞれ別の部分構造を構成し,各部分構造が1個のイオンのみで構成された複合結晶モデルが用いられている.さらに興味深いことに,各原子の変調関数にはGa 2O 3(ZnO)mと同様に振幅の大きなジグザグ関数が用いられている.こうした類似点は両者の構造の成り立ちの本質的な部分に共通した原理がはたらいているためと解釈できる.4.今後の課題と展望Ga 2O 3(ZnO)mにおける指数mは整数には限定されないことは先に説明したとおりである.しかし,今回導出された高次元モデルはmが整数以外の場合にも対応するかたちとはなっていない.例えば(Ga 2O 3)2(ZnO)13の構造は表1のパラメータでm=13/2としたものとは異なっている. PbS-Bi 2S 3系の高次元モデルも同様と思われる.一方,シアー構造に対して構築された高次元モデルはmが一般の有理数および無理数の場合にも対応している. 6)この違いは構造ユニットをつなげる際にシアー構造ではそのまま平行移動(せん断操作)すればよいのに対して,単位胞レベルの双晶では構造ユニットを鏡映操作したうえでつなげることに起因すると考えられる. Ga 2O 3(ZnO)mやPbS-Bi 2S 3系についてもシアー構造のようなより汎用性の高い構造モデルの構築が可能であるかどうかわからないが,今後検討していく必要がある.酸化亜鉛を基本とするホモロガス相としてはIn 2O 3(ZnO)mが古くから知られ, 9)材料特性の研究も広く行われているが, 25),26)この構造27)もウルツ鉱型構造をもとにGa 2O 3(ZnO)mと類似の方法で導出することができる.ただし,ウルツ鉱型構造から金属と酸素を切り出すときの面の方位がIn 2O 3(ZnO)mでは単純に(ウルツ鉱型構造の)c軸に対して垂直である.その点では, In 2O 3(ZnO)mの構造はGa 2O 3(ZnO)mに比べてよりシンプルであるといえる.また,構造ユニットをつなげる際の対称操作が鏡映ではなくらせん(mが偶数の場合)あるいは複合六方格子の並進(mが奇数の場合)となる.したがって, In 2O 3(ZnO)mの構造は単位胞レベルの双晶とは異なるものとなり,より拡張した概念でとらえる必要がある(竹内による解説4)でも類似の事象が言及されている).これらの構造では各原子は対称性の高い特殊位置にあるため,あえて高次元で表現するメリットは特にないと思われるが,高次元結晶学の観点からはどのような構造モデルが適用され得るのか興味深い.ホモロガス相の生成は電荷補償に関連した形態の1つともみなされる.酸化亜鉛は最も代表的な電子セラミックス材料の1つであり,これに価数の異なる金属をドーピングすることによりその特性を操作することは材料開発の常套手段の1つとして広く行われている.このとき,添加量が許容限界を超えると一般には別の相が生成して2相共存状態となる.しかし,一部の金属に対してはこれとは異なる現象がみられる.それがすなわちホモロガス相の形成である.Ga 2O 3(ZnO)mの場合, 2価の亜鉛の一部が3価のガリウムで置き換わることになるが,それによる電荷の不均衡は先に述べたようにウルツ鉱型構造から酸素を金属より多く(厚く)切り出すことにより解消される. In 2O 3(ZnO)mにおいても同様の見方ができる.また, PbS-Bi 2S 3系ホモロガス相においては鏡面近傍で近接する2個の金属の一方を除去することにより,さらにシアー構造の場合はせん断面近傍の酸素イオンが取り除かれることにより,電気的な中立性が保たれる.以上のように, Ga 2O 3(ZnO)mは局所欠陥の生成がなくても電荷が中和されている構造であるが,その電気的特性は単純ではなく,合成過程やその後の雰囲気処理で絶縁体から数十S/cmまで電導度が変化する. 14)このことは,構造中において何らかの欠陥が生成・消滅していることを意味する.また,極端に還元しない限り透光性があるため透明導電性酸化物であり,さらに負のゼーベック係数を示す低熱伝導率の熱電変換材料としての可能性も検討されている.こうした性質が何に起因するのか,構造的な要因とどのように関係しているのかを明らかにすることも今後の重要な課題である.5.おわりにホモロガス相Ga 2O 3(ZnO)mは新構造であるが,これを高次元空間で記述してみると単位胞レベルの双晶として知られるPbS-Bi 2S 3系鉱物群の構造モデルと多くの共通点がみられることがわかった.単位胞レベルの双晶やシアー構造はかつて日本国内をはじめとして多くの研究者が情熱を注いだ研究対象であるが,残念ながら今日では顧みられる機会は多くない.しかし,ここに紹介したように高次元結晶学の観点から取り扱うことで新たな側面が見えてくることもある.それは先人達の研究の足跡をたどり,その一端を継承することにもなり得るであろう.また,近年のX線自由電子レーザーの開発などによる測定技術の飛躍的な向上により,従来は観測されなかった微弱なサテラ348日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)