ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

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概要

日本結晶学会誌Vol55No6

道上勇一,菅家康,森孝雄,君塚昇る. 12) mが偶数の場合はm=6の場合に切り出した金属と酸素の厚みをそれぞれ段階的に変えていけばよい.すなわち, m=8に対しては金属イオンは図2bに示されるCZO8面とCZ8面で挟まれた領域をとり,酸素イオンはCZO8面とCO8面で挟まれた領域をとる.一般のmに対してはCZOm面とCZm面の間の金属イオンおよびCZOm面とCOm面の間の酸素イオンを切り出せばよい. mが奇数の場合は切り出す領域が全体的に少しずれるが,類似の操作により導出できる.さらに, Ga 2O 3(ZnO)6の層とGa 2O 3(ZnO)7の層が交互に出現して単位格子を形成した結晶(Ga 2O 3)2(ZnO)13が得られ,高次元構造モデルが報告されている. 16)一般にはGa 2O 3(ZnO)nとGa 2O 3(ZnO)n+1が交互に出現した結晶であるから(Ga 2O 3)2(ZnO)2n+1と表されるが,従来の表式Ga 2O 3(ZnO)mを用いればm=6.5などの半整数の場合に対応する.この考えを拡張すればmが任意の有理数(あるいは無理数でも可)に対応する仮想的な構造を導出することができる. m=6の層を[6], m=7の層を[7]と表せば,上の構造は[6]-[7]が周期となるが,例えば[6]-[6]-[7]を周期としたものはm=19/3,[6]-[6]-[6]-[7]の場合はm=25/4,などとなる.こうした構造のバリエーションはシアー構造や単位胞レベルの双晶でも考えられるものである. 4),17)図2 Ga 2O 3(ZnO)6とウルツ鉱型酸化亜鉛の構造の比較.(Comparison of structures Ga 2O 3(ZnO)6 and wurtziteZnO.)(a)Ga 2O 3(ZnO)6,(b)ZnO.た領域の導出を試みる.その過程は3つのステップに分けて考えるとわかりやすい.まず第1段階として,酸化亜鉛のウルツ鉱型構造から特定の領域の金属と酸素を切り出す.具体的には図2bにおいて紙面に垂直な4つの面B1Z,B2Z, COZ6, CZ6に囲まれた金属イオン,および同じく4つの面B1O, B2O, COZ6, CO6に囲まれた酸素イオンがそれぞれ対応する(この図は酸化亜鉛をa軸方向から投影したものであり, c軸は紙面の上下方向に対して約30度傾いた方向を向いている).このとき,切り出される金属に比べて酸素のほうが少し多い.第2段階として,これらの構造ユニットの厚みを揃える.すなわち,金属原子の間隔を図の縦方向に少し拡げ,酸素原子の間隔を逆に少し縮める.第3段階としてこれら2つの構造ユニットを再び重ね合わせるが,その際,各々の構造ユニットが有する対称心(図中のi Znとi O)を一致するように配置する.こうして得られた構造単位を鏡面操作によってつなげることによりGa 2O 3(ZnO)6の結晶構造が完成する.このときc軸はもとの酸化亜鉛のc軸に対して約30度傾いている.2.2構造の展開上の考え方をそのまま拡張すると,組成(すなわち指数m)の異なるほかの相の構造も容易に導き出すことができ3.高次元空間モデル3.1方法の概略高次元解析法はインコメンシュレート相や準結晶などの非周期構造を扱うための解析手段として発展してきたが, 18)-22)近年,ホモロガス相の構造の記述においても有益であることが示されている. 23),24)その際,シアー構造におけるせん断操作や単位胞レベルの双晶における鏡映操作による原子座標の変化は一種の変調とみなされる.これは本来の変調構造の概念から逸脱したとらえ方ではあるが原理的には特に問題は生じない.ただし,必然的に不連続な変調関数が導入されることとなり,通常の変調構造の場合に比べれば解析過程も若干異なるものとなる.通常の変調構造では原子は第4軸方向に平行に延びた直線を基本とし,変調による変位を付加的なフーリエ関数の項でフィッティングする.一方,シアー構造や単位胞レベルの双晶を変調構造として扱った場合には,実際の構造が上述の基本構造の状態から著しく逸脱しているため,こうしたものを初期モデルとして用いてもうまく精密化できない.そこで,三次元空間で定義された理想構造を高次元空間に展開したものを初期構造として用いる.このとき,原子は一般に不連続で第4軸方向に対して必ずしも平行ではない.こうして適切な理想構造モデルが(3+1)次元空間で構築できれば,後は通常の場合と同じく実際の構造とのズレを付加的なフーリエ関数項でフィッティングすればよい.346日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)