ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

日本結晶学会誌55,340-344(2013)総合報告γ-グルタミルトランスペプチダーゼの立体構造と特異的反応大阪大学大学院理学研究科生物科学専攻(現所属:大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻)福山恵一宮崎大学テニュアトラック推進機構和田啓Keiichi FUKUYAMA and Kei WADA: Structure and Reaction Mechanism ofγ-Glutamyltranspeptidasesγ-Glutamyltranspeptidase(GGT)is a heterodimic enzyme that undergoes post-translationalprocessing and catalyzes the hydrolysis ofγ-glutamyl bond in such compounds as glutathioneand/or the transfer of theγ-glutamyl group to other amino acids and peptides. We havedetermined the several crystal structures of GGT orthologs and their complex structures withthe substrate/product and inhibitors as well as GGT precursor. These structures demonstratethe mechanism of the maturation, catalytic reaction and substrate recognition of GGT.1.はじめにγ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT)は,グルタチオン(γ-Glu-Cys-Gly)をはじめとするγ-グルタミル化合物の加水分解,またはγ-グルタミル基をほかのアミノ酸やペプチドに転移させる反応を触媒する酵素である(スキーム1). 1)この酵素はバクテリアから高等動植物まで広く分布しN-terminal nuclephileヒドロラーゼスーパーファミリータンパク質に属する. 2),3)バクテリアや植物のGGTは水溶性であるが,動物のGGTは膜アンカータンパク質であり,さらに高度に糖鎖修飾されている.ヒトの酵素は,血液検査における肝機能マーカー,γ-GTP値,に使われており,なじみ深い.この酵素は大小2つのサブユニット(L-サブユニットとS-サブユニット)からなるヘテロダイマーである. 4)この酵素は一本の前駆体ポリペプチドとして転写・翻訳され,その後自己触媒的にプロセスされて成熟酵素となる. 5) Thr残基(大腸菌のGGTの場合Thr391)がこのプロセスで必スキーム1 GGTが触媒する反応.(The reaction catalyzedby GGT.)X=OHの場合は加水分解反応となり, X=R-NHの場合は転移反応となる.須であると同時に, S-サブユニットのN末端になったこのThr残基が触媒基として働く. 6)われわれはバクテリアのGGTを中心に,酵素の触媒反応,自己触媒的にプロセスされる機構,この酵素の阻害機構や阻害剤の結合様式が酵素によって多様であることなどについて研究してきた.ここではわれわれの研究を中心に紹介したい.2.GGTの結晶構造と触媒反応精製した大腸菌のGGTを, PEG6000を沈殿剤に用いた蒸気拡散法によって結晶化した(硫酸アンモニウムを沈殿剤に用いても結晶ができるが,回折能が悪い.). 7)位相問題の解決には紆余曲折があったが,最終的にセレノメチオニン置換体をMAD法で解決した. 8) SPring-8の放射光を用いて回折強度を測定し,通常のソフトウェアを用いてプロセスした.ネイティブのGGTは最初1.95 A分解能で解析した.図1にGGTのフォールディングを示す. L-サブユニットが主に分子の外側を, S-サブユニットが内側を形成し,全体としてαββαの2層構造をなしている.活性残基であるThr391は図1aでは中央にある.興味深いことに, L-サブユニットのC末端はThr391と36 A程離れており(図1b),プロセッシングによりコンフォメーション変化を起こしていることを示している.われわれは次に基質であるグルタチオンを,種々のソーキング時間でGGT結晶に取り込ませ,各々の結晶を凍結させて電子密度を検討した.すると,ソーキング時間が短いと(~10 sec)γ-グルタミル基がGGTのThr391 Oγにエステル結合した中間体を捉えることができた(図2). 8)340日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)