ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

竹中康司色). 10 KにおけるX線回折により, A=Co, Ni, Ge, Pd,Snについては立方晶であり, A=Zn Ga, Agについては正方晶であることが確認された(A=Rh, Inについては低温のX線回折が,現時点で測定されていない).図5に代表的な組成についてX線回折の結果を示す.図5aに示されるA=Geにおいては(200)ピークが全温度域で単一であり,立方晶であることがわかる.図5bおよび図5cにそれぞれ示されるA=GaとA=Agでは(200)ピークが高温域では単一であり,この温度域で立方晶であることを示すが, 10 Kではいずれも2つに分裂し,ピーク強度は低角側:高角側=2:1となっている.これは低角側,高角側のピークがそれぞれ正方晶表記で(200),(002)であることに対応する.これはMn 3CuNの低温強磁性相と同じ振る舞い12),16)であり,正方晶T 1?,すなわちa>cである図6 Mn 6N八面体の三角型反強磁性構造.(Triangularantiferromagnetic spin structure of a Mn 6N octahedron.)(a)Γ5g ,(b)Γ4g .上図:図2b挿入図において, M=Mn(白丸)のみを残した.矢印は磁気モーメントを表す.下図:[111]方向から見た磁気モーメントの配置. 2枚の正三角形は隣り合う(111)面を表す.第1近接は同じ正三角形内のMn原子(距離a/√2),第2近接はN原子を挟んで向き合ったMn原子(距離a)となる.ここでaは格子定数である.第1近接の磁気相互作用J 1は反強磁性的(<0),第2近接の磁気相互作用J 2は強磁性的(>0)と考えられる.幾何学フラストレーションの効果に加え,強い第2近接の強磁性相互作用により,複雑な三角型長距離秩序が形成される.(111)面内において磁気モーメントを90度回転させることでΓ5gからΓ4gへ連続的に移行される.*T N直下でΓ5g反強磁性となるA=Agでは,温度の低下とともに強磁性成分が混じってくることが中性子回折で明らかになっている. 32) Mn 3AgNで10 Kでのωsが比較的小さい5.79×10 ?3となっているのは,この磁気構造上の特徴が影響している可能性がある.ことを示している.ここで,化学量論比にあるMn 3ANで用いたのと同じ手法で見積もった自発体積磁歪ωsについて考察する.結晶構造の立方晶か否かとωsの大小は見事に対応している.立方晶の一群5系はωsがおおむね(8~10)×10 ?3程度,最大で12.34×10 ?3(A=Ge)に達するのに対し,正方晶の一群3系では最も大きくても2.66×10 ?3(A=Zn)で, A=Ga, Agではさらに小さい.しかも10 Kではωsの小さいAg固溶系が, reentrant前の中間相(70~145 K)では立方晶で,そこでは大きなωs(10.51×10 ?3)となっている.A=Zn, Gaについては過去の報告34)とも符合する.Mn 3ANでは,大きなωsのためには立方晶が必要であると結論づけてよい.逆に言えば,まだ評価されていないMn 3Cu 0.85Rh 0.15N, Mn 3Cu 0.85In 0.15Nについても,それぞれωsが7.89×10 ?3 , 10.99×10 ?3と大きく,これらの固溶系では低温基底状態で立方晶であることが示唆される.さらに,大きなωsには立方晶に加えて三角型の反強磁性(Γ5gもしくはΓ4g ,図6)が必要であるように見える.われわれの実験で得られたのは直流磁化率であり,詳細な磁気構造までは必ずしも決められないが,明確に強磁性転移しているもので顕著なωsを有するものはない.過去の中性子回折実験32)との対比は,三角型反強磁性と大きなωsの相関をより直接的に示している.化学量論組成の立方晶Mn 3ANについて言えば,中性子回折により三角型反強磁性であることが示されたA=Ni, Zn, Gaが,それぞれわれわれの研究でωs=8.18×10 ?3 , 20.44×10 ?3 , 19.10×10 ?3と顕著なωsを示す一方で,中性子回折で三角型反強磁性でない磁気構造が確認されたA=Rhは,われわれの研究で2.07×10 ?3と小さなωsとなっている.*Mn 3Cu 1?xGe xNの固溶系では最近の中性子回折実験35)で,Γ5g反強磁性とωsのきれいな相関が示された.さらに, Mn 3GaNのMnサイトを微量のFeで置換した系36)では,Γ5g反強磁性の消失とωsの消失が対応している.磁気構造の詳細は興味深い今後の課題である.6.磁気構造と磁気体積効果第1近接のMnモーメント間に反強磁性相互作用J 1が働くMn 6X八面体は典型的な三次元のフラストレート系である. 37) Mn 3ANの場合,強い強磁性的な第2近接相互作用J 2に助けられて,立方晶を保ったままΓ5gやΓ4gのような複雑な反強磁性磁気構造が出現すると考えられる.立方晶三角型反強磁性のとき顕著な磁気体積効果が発現するのは,構造が歪んで縮退を解くより縮退を保ったまま膨らんだほうがエネルギー的に安定であることを示すもので,幾何学的フラストレーションとの関連を示唆する.大きなωsとフラストレーションを結びつける1つの考えは,フラストレーションがあると三角型反強磁性秩序が消えた常磁性状態において磁気モーメントの振幅を保ってそれら336日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)