ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

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概要

日本結晶学会誌Vol55No6

逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の磁気体積効果と巨大負熱膨張マンガン逆ペロフペロフスカイトMn 3AXは,負熱膨張のほかにも,磁歪, 12),13)磁気熱量効果, 14)磁気抵抗効果, 15)低抵抗温度係数16),17)といった機能を発現し,またピエゾ磁気効果の発現が理論的に提案されている. 18)これら多彩な物性の背景にはMn 3d-X 2pの電子軌道混成によってバリエーション豊かになったMn3d電子の存在がある.逆ペロフスカイトに代表される侵入型規則合金は,酸化物とは異なった物理的バックグラウンドとパラメーターをもった一大物質群を形成している.中でもα=-30 ppm/Kを超え,従来の数倍に達する巨大な負熱膨張は基礎物理,実用技術両面から大きな関心を集めている. 3)この負熱膨張は,巨大な磁気体積効果により結晶格子の膨らんだ反強磁性相と,格子の小さな常磁性相との間の鋭い体積変化を,構成元素一部置換という化学的な手法により温度に対して緩慢にして実現された. 5)このような「電子相制御」による機能材料の開発は,材料学の新しいパラダイムとなっている. 19)Mn 3ANの巨大負熱膨張発見が負熱膨張材料の研究に与えた影響は特筆されるべきもので,例えばこの成果以降SrCu 3Fe 4O 12, 6) ReO 3, 20) ScF 3, 21) Bi 0.95La 0.05NiO 3, 7) ZnF 2, 22) La(Fe, Si, Co)23) 13などの新しい負熱膨張物質が見つかっており,特にSrCu 3Fe 4O 12, Bi 0.95La 0.05NiO 3, La(Fe, Si, Co)13は, Mn 3ANと同じ電子相制御の手法によるものである.電子相制御の発想によるものとしては,磁気秩序と軌道秩序が関係した新しい機構の負熱膨張物質Ca 2Ru 1?xCr xO 4も発見されている. 24)ある限定された温度域で(一次相転移なら瞬時に)生じる体積変化を,元素置換などの化学的手法により「なまらせて」できた電子相制御型負熱膨張物質の場合,動作温度幅?Tとαの絶対値はトレード・オフの関係にある.動作温度が狭くてよいなら,例えば1)の従来型負熱膨張物質に比べてはるかに大きな負熱膨張を実現できることが,その特徴である.工業的な熱膨張抑制剤としてみると, Mn 3ANは大きな負熱膨張のほかにも,等方的(立方晶)で温度履歴がないため,欠陥や歪が入りにくく機能が安定している,剛性が大きく(ヤング率E~200 GPa), 25)複合材料にしたときより効果的に熱膨張を抑制する,といった優れた特長を有している.このMn 3ANを用いて,さまざまな材料の熱膨張を抑制する試みも活発になされ,熱膨張可変金属基複合材料26),27)や低膨張樹脂基複合材料28)といった画期的な機能を有する材料の提案もなされた.例えば前者については,低膨張と高熱伝導度が求められるパワーデバイス向けヒートシンク材料としての活用が期待される.Mn 3ANの巨大負熱膨張に関する重要な未解明の問題は,負熱膨張の起源となる,磁気秩序相における大きな体積の膨張,すなわち自発体積磁歪ωsの起源と,もともと鋭かった体積変化がブロードになるメカニズムである.ωsとブロードニングは, Mn 3ANにおける特異な電子状態を象徴している.同時に,負熱膨張の機能を決める本質的な因子でもあり,実用機能開発の学理基盤を与えるものとして,その理解が望まれている.本稿では,化学量論比にあるMn 3ANと代表的な負熱膨張組成である固溶系Mn 3Cu 1?xA xNの系統的な構造と磁性の研究結果に基づき,逆ペロフスカイト型マンガン窒化物の大きなωsやブロードな体積変化を議論する.4.化学量論比にあるMn 3 ANの自発体積磁歪図1および図2にMn 3Cu 1?xA xNの線熱膨張?L(T)/Lを示す.また表2は, Mn 3ANの物性値一覧である.図1では, Aとして8種の元素Co, Ni, Zn, Ga, Rh, Pd, Ag, Inを図1Mn 3Cu 1?xA xNの線熱膨張?L(T)/L.(Linear thermal expansion of Mn 3Cu 1?xA xN.)(基準温度400 K):A=Co(a), Ni(b), Zn(c), Ga(d), Rh(e), Pd(f), Ag(g), In(h).ここで, x=0(Mn 3CuN)(黒), 0.1(赤), 0.15(橙),0.3(緑), 0.5(水), 0.7(青),1(Mn 3AN)(紫).編集部注:カラーの図はオンライン版を参照下さい.日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)333