ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6

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日本結晶学会誌Vol55No6

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概要

日本結晶学会誌Vol55No6

竹中康司する.それゆえ,温度上昇に伴う原子間距離の増大が抑制される. WO 4四面体など核となるユニットの熱膨張が抑えられている状況で結晶構造の余分なスペースを消すような変形(ZrW 2O 8の場合,横フォノンモード)が顕著になれば,正味の負熱膨張が出現する.酸化物系の負熱膨張物質が構造中にある種の「ゆとり」をもつのはこのためである.このゆとりはまた,この物質群の低い剛性の遠因となる. 3)2)は,原子半径(イオン半径)が価電子数によって変化することに由来するものである.構成元素間に電荷移動が生じると,価電子数が増える原子は大きくなり,減る原子は小さくなる.しかし,価電子数による原子半径変化の度合いは原子種や電子配置などによりまちまちである.価電子を減らす原子の収縮に比べ価電子を受け取る原子の膨張が小さければ,正味として体積が小さくなる.これが温度上昇により生じれば負熱膨張となる.この機構による負熱膨張物質としてはSrCu 3Fe 4O 6) 12やBi 0.95La 0.05NiO 7) 3が最近見出され,なかでもBi 0.95La 0.05NiO 3は室温でαが-82 ppm/Kに達し,大きな関心を集めている.3)の磁気体積効果8)とは金属磁性体において,磁気モーメントの伸縮に伴い体積が変化する現象のことである.1897年にギョームによって36Ni-Feインバー合金の低熱表1各種材料と負熱膨張物質の線膨張係数絶対値比較.(Coefficients of linear thermal expansion of variousmaterials with positive and negative thermal expansion.)材料の線膨張係数(293 K)インバー(36Ni-Fe)シリカパイレックスケイ素(シリコン)アルミナガラス鉄銅アルミニウムポリアミドイミドリチウムゴムポリエチレンα[ppm/K]0.1~10.53378~1012172330~405677100~200ケイ素酸化物群-1~-6ZrW 2 O 8-9Mn 3 AN-30超(Bi, La)NiO 3-82膨張として初めて見出された.ギョームはこの功績により1920年にノーベル物理学賞を受賞した.磁性はもともと,電子軌道が十分に重なり合って電子が自由に動ける状態では発現しにくいものである.この事情は固体電子論の言葉で,体積が大きくなってバンド幅が狭くなりフェルミ準位近くの状態密度が大きくなれば,それだけ磁性が発生しやすくなる,と説明できる.それゆえ,温度の低下とともに発達する磁性(磁気モーメント)と,体積の増大が連動する.マンガン窒化物の負熱膨張はこの機構に分類される.3.逆ペロフスカイト型マンガン窒化物逆ペロフスカイトM 3AXとは, fcc(Cu 3Au型)合金の中心に窒素などの軽元素が侵入した規則合金群の総称である(図2b挿入図).面心位置Mや頂点位置Aにはさまざまな遷移金属や半導体元素が,また,中心位置Xには窒素はじめ,水素,ホウ素,炭素,酸素などの侵入軽元素が入る.中心に金属元素が位置し,それに6配位で酸素などの軽元素が結合している通常のペロフスカイトと比べて,軽元素と金属元素の位置が逆転していることがその名の由来である.本稿の主役であるマンガン逆ペロフスカイトのほか,超伝導体であるニッケル逆ペロフスカイト9),10)が著名である.LaMnO 3など通常のペロフスカイトにならってAXM 3と表記される場合もあり,その表記については混乱もあるが,本稿ではfcc合金を母体とするという,その化学的成り立ちを重視して, M 3AXとした.実際,侵入元素であるがゆえに,ペロフスカイトの体心金属元素に比べて圧倒的に容易に,逆ペロフスカイトの軽元素Xは欠損する.逆ペロフスカイトの物性は軽元素の含有量やその規則性に依存することが知られているが, 11)本稿ではできる限り窒素欠損を減らしたものについて議論し,窒素欠損効果については触れない.本稿ではこれ以降,簡単のためMn 3ANと表記する.本稿で取り上げた試料の窒素含有量は表2にまとめる. Mn 3AN 1?δの表記でおおむねδ~0.1程度の欠損がある.後に出てくる「化学量論組成」とは,本稿では「Aが固溶系でなく,単一の元素で構成されている組成」の意味であり,「窒素欠損を含まない」の意味ではない.表2磁気体積効果を示す立方晶反強磁性Mn 3AN 1?δの物性値.(Physical parameters of cubic antiferromagnetic Mn 3AN 1?δshowing magnetovolume effects.)Mn 3 AN 1-δACoNiZnGaRhPdAgIn1-δ0.740.870.960.920.750.890.880.89T N[K]252256170288226316276366(弱い強磁性)(弱い強磁性)10 K3.8673.8863.8903.8983.9183.9824.0134.000格子定数[A]295 K400 K3.8723.8793.8883.8933.9043.9133.8883.8973.9303.9363.9933.9974.0224.0294.0124.012フィッティング・パラメーターa[A]0γθ[K]D3.8592.14452.03.8752.11525.93.8872.57344.53.8732.54429.23.9162.19419.23.9772.42484.24.0062.42336.83.9832.65394.8ωs[10 ?3]10 K5.648.1820.4419.102.073.605.799.24332日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)