ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6
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日本結晶学会誌Vol55No6
草本哲郎,神戸徹也,西原寛を高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)により観測した結果,サンプルの端の部分においてナノシートが積層している様子が観測できた(図9a).このサンプル端部において電子線回折を測定した結果, 6回対称構造を示唆する回折点が得られた(図9b).グラファイトを基準にして面指数付けを行い,面内の周期について解析を行った.これらの結果,ナノシートが格子定数1.4~1.5 nmの6回対称格子を形成していることが予想された.構造をより精密に決定するため大型放射光施設SPring-8にて粉末X線回折を測定した.その結果,ナノシート由来の回折ピークが複数観測された(図9c).ナノシートの三次元構造として, 6回対称構造がそのまま重なった構造(AAA…型)と,互い違いにずれて重なった構造(ABA…型)の二通りが推定される.実験結果と各推定構造から予想される回折パターンを比較した結果,ナノシートはそれぞれの層が互い違いにずれた構造(ABA…型)であり,面内の周期が1.41 nmであることが判明した(図9d).以上の電子線回折および粉末X線構造解析から,得られたナノシートが図7に示す構造を有していることが明らかとなった.3.2.2 thin-1を用いた周期構造の同定走査型プローブ顕微鏡により,高配向熱分解黒鉛(HOPG)に転写したthin-1(単層および数原子層のナノシート)の構造を観察した.原子間力顕微鏡(AFM)の測定像を図10aに示す. Phaseイメージから, HOPG上にナノシートが転写されていることがわかる.一枚のナノシートを拡大した高さプロファイルを見ると,単層の厚さが0.6nm程度であることがわかった(図10b).同様の測定条件におけるグラフェン単層の厚さは0.5~1 nmであることから,この0.6 nm厚のナノシートは単層であると判断できる. 18)走査型トンネル顕微鏡(STM)によりナノシートを観察した結果, 6回対称性を有する周期構造が観測された(図10c, d).構造の周期は4.9 nmであり,図9dに示すモデル図と比較すると,非常に大きい値である.これはナノシートの周期構造とHOPGの周期構造の重なりにより生じたモアレ構造であり,解析の結果, HOPGに対し1.4°の角度で1.41 nmの周期を有するナノシートが重なっていると解釈できた.3.3ナノシートの電子機能thick-1およびthin-1は,酸化還元活性なNi(bdt)2部位から構成され,サイクリックボルタモグラムにおいてNi(bdt)2部位の?1/0価に由来する酸化還元波を0.05および0.21 V(vs ferrocenium/ferrocene)に示す(図11a, b).ジチオレンナノシートでは, Ni(bdt)2部位が?1価と0価の状態が共存した混合原子価状態にあるが,この実験結果は,この電荷状態を化学的な酸化または還元によって制御できることを示している.thick-1を還元剤(テトラシアノキノジメタンのラジカル図10 HOPG上に転写したthin-1のSPM像.(SPM imagesof thin-1.)(a)AFMによるPhaseイメージとそのラインプロファイル.(b)高さイメージとそのラインプロファイル.測定領域は(a)内の四角形.(c)STMイメージとラインプロファイル(inset).(d)STMイメージの拡大図.測定領域は(c)内の四角形. FFT変換イメージ(右上)と, FFTによる補正イメージ(左下).図11(a)thick-1および(b)thin-1のサイクリックボルタモグラム. thick-1は粉末サンプルをグラッシーカーボン電極に押し付けることで固定して測定した. thin-1はHOPGに単層ナノシートを25回転写し,それを電極として使用して測定した.(c)thick-1の酸化還元挙動.(Cyclic voltammogramsof(a)thick-1 and(b)thin-1.(c)Redox behaviorof thick-1.)328日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)