ブックタイトル日本結晶学会誌Vol55No6
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日本結晶学会誌Vol55No6
π共役金属ジチオレン錯体の新次元展開3.金属ジチオレン錯体の二次元ナノシートの創製3.1ナノシートの合成および同定メタラジチオレンナノシートは3方向配位子と金属との組み合わせにより形成できる.われわれは配位子として三角形3核錯体の形成に用いたベンゼンヘキサチオールを,中心金属としてニッケルを利用した.ジクロロメタン中においてベンゼンヘキサチオールとNi(OAc)2を混合,攪拌した結果,黒色の粉末状固体が得られた.この粉末の形状を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した結果,生成物の形状は期待していた二次元シート状ではなく,アモルファスの微細粒子であることが明らかとなった.つまり,二次元ネットワーク構造を構築するには,新たな合成方法が必要となった.そこでわれわれは,二相の界面(液体-液体間)を二次元的な化学反応空間として利用することを考えた.すなわちベンゼンヘキサチオールのジクロロメタン溶液とNi(OAc)2の水溶液をそれぞれ調製し,両溶液の界面を接触させることで,二相界面における錯体形成を制御しようと試みた.その結果,二相界面において金属光沢を示す黒色物質(thick-1)を得ることができた(図8a).この金属光沢はNiジチオレンナノシートのもつ広大なπ共役系に存在する非局在電子に由来するものと考えられる.合成したナノシートは,負の電荷を有している.これは,ナノシートの構成要素であるニッケルビスジチオレン錯体Ni(bdt)2が酸化還元活性であり(Ni(bdt)2は0価, ?1価, ?2価という3つの電荷状態をとり得る),後述するように,ナノシート中において0価と?1価のNi(bdt)2が共存している(シートが混合原子価状態にある)ことに起因している. 15)図8aにあるように,合成時に水層に臭化ナトリウムを加えることで, Niジチオレンナノシートの対イオンとしてナトリウムイオンを導入した.上記の二相界面合成法にさらに工夫を加えることで,単層もしくは数原子層のニッケルジチオレンナノシート(thin-1)を合成できる条件を見出した.金属イオンの水溶液の水面上に,ベンゼンヘキサチオールの酢酸エチル溶液の液滴を静かにのせると,表面張力によって液滴が水面のほぼ全体に広がる.このとき,生成するナノシートが界面全体を覆い尽くすことがないように(=生成したナノシートが重なり合わないように),配位子溶液の濃度および液滴量を調節することが重要である.界面に作製した単層もしくは数原子層のナノシートは,界面と基板とが水平に接触する転写方法(LS法)により基板に転写した(図8c). 16)ナノシートの組成,構造,および電荷状態を調べるため,光電子分光(XPS)を測定した.その結果Ni, C, S, Naに由来するピークが確認された. Niジチオレンナノシートを構成するNi(bdt)2では,酸化還元反応が主にNiジチオレン環上のπ軌道で起こるため, Ni(bdt)2部位の価数の違いがSのピークの束縛エネルギーの違いとして現れる. 17) thick-1とthin-1のSの2s軌道由来のピークを解析することにより,それぞれのサンプルにおいて?1価と0価のNi(bdt)2ユニットが74:26および37:63の比率で存在していることを明らかにした.3.2ナノシートの構造3.2.1 thick-1を用いた周期構造の同定thick-1はフリースタンディングなシート状物質として得られた.図8bに走査型電子顕微鏡(SEM)による測定像を示す. thick-1は10×30×1μm 3程度の大きさを有するシート状構造を形成しており,その厚さ(1μm)から数千層のナノシートが積層していると考えられる. thick-1図8(a)液-液界面におけるthick-1の合成.(b)thick-1のSEM観察画像.(c)気-液界面におけるthin-1の合成.(Preparation of thick-1 and thin-1.)日本結晶学会誌第55巻第6号(2013)図9(a)thick-1のHRTEMの観察画像および(b)電子線回折.(c)粉末X線回折ピークおよび(d)推定される積層構造.((a)HRTEM image,(b)electrondiffraction,(c)powder XRD pattern, and(d)expectedstacking structure of thick-1.)327