日本結晶学会について

会長挨拶(令和2−3年度)

この度、菅原洋子前会長の後を引き継ぎ、2020、2021年度の日本結晶学会の会長を務めさせていただくことになりました。 ここ10年余り、学術を取り巻く環境が厳しくなり、多くの基礎系学会と同様、本会でも数年来、会員の減少という事態が続いています。 その上に、本年初めより世界は新型コロナウイルス感染症拡大という未曽有の困難と向き合っています。様々な問題山積みの中ですが、 こういう時にこそ、会員のみなさまにとって存在感のある学会だと思っていただけるように庶務幹事をはじめとする幹事会、評議員会、 各委員会、WGの方々と力を合わせて頑張っていきたいと思っております。

1950年創立の日本結晶学会は本年70周年を迎えます。その歴史は前会長の挨拶にまとめられております。 ぜひお読みください。また、昨年末、学会ホームページに結晶学アーカイブが立ち上がりました。 最近、そこに掲載されている1989年発行(多くの執筆は1985‐6年頃)「日本の結晶学~その歴史的展望~」を少し覘く機会がありましたが、その時、 メモとして「研究者集団の素晴らしさが、今の研究発展の源!今の研究が未来を拓く」、また、「研究手法の広がりや深さに改めて感動」 とも書き留めています。引き続き、2014年発行「日本の結晶学(II)~その輝かしい発展~」も覘きました。 研究手法の著しい進展と研究対象の広がりはサブタイトル通り輝いています。一方、各分野のほとんどの章のはしがきに、 結晶学が貢献している研究だが主な研究者が会員でないために載せられなかったという意の記述があることが気になります。

はじめにも述べました、会員、とりわけ若手会員の持続的な減少という事態に危機感をもって前会長を中心にWGでの検討が始まっています。 私が結晶構造解析を主な手法とする研究室に入った1975年以降、危機感は、しばらくして結晶学会会員のご尽力で実現できた構造解析の汎用化等により、 「結晶学は確立した学問」と言われ「その専門家は教授になれない」という風潮があったとき以来ではないかと思います。その危機感は、 放射光やコストパフォーマンスの良い計算機の出現、それぞれの分野の技術革新(生物系では遺伝子工学など)等によって研究成果が目に見える形で明らかになり、 いつの間にか忘れ去られました。それでも生物系では、しばらくの間、「蛋白質の立体構造が分かって何の意味があるのか」 という声が第一線でご活躍の生命科学分野の方々からもありました。

本会では、長らく結晶学に関わる種々の理論や手法についての講習会を開催してまいりました。 ホームページの講習会の記録によると、 特に、粉末X線解析の講習会は20年近くにわたり継続して開催されており、多くの研究者や技術者が参加し、大学・研究機関に加え、 産業界の研究の進展にも広く貢献していることは誇るべき活動だと思います。 結晶学と結晶学に密接にかかわる分野の多くの研究者を結晶学会に取り込めていないというこれまでにも指摘されていることへの対応としては、 さらに、結晶学会の各分野において、どのような学問上の課題にどのように取り組み、そのために、どのような結晶学の回りの広範な手法を取り込み、 如何に学問の革新を図っているかということを具体的に、意識的に発信していくことが、結晶学の回りの広範な学問に関わっておられる多くの研究者や若手研究者に働きかける上で、 大切なことの一つだと認識しております。

最後に、学会創立70周年を迎えるにあたって、昨年来、結晶学会と日本学術会議の結晶学分科会の共催で、 「本年度年会では、みなが元気になるよう結晶学の未来を語る70周年記念シンポジウムにしよう」ということで、結晶学会には企画委員会を立ち上げ、 本格的な始動というときに新型コロナウイルス感染症拡大が起こりました。これまでと同じような年会や記念シンポジウムができるとは思えないので、 どうするか検討しているところですが、検討結果の詳細は、ホームページやメールでお知らせしてまいります。 今は、すこしでも会員と学会にとってプラスになることができればと願っています。みなさまのお知恵の拝借とご協力をお願い申し上げます。


2020-2021年度 会長
尚絅大学・尚絅短期大学部 学長
熊本大学 名誉教授
山縣 ゆり子
2020年5月