ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

日本結晶学会誌60,225-226(2018)最近の研究動向両親媒性ナノ空間をもつ有機・無機ハイブリッド多孔体KCS-2産業技術総合研究所化学プロセス研究部門池田卓史北九州市立大学国際環境工学部山本勝俊Takuji IKEDA and Katsutoshi YAMAMOTO: Novel Organic-Inorganic Hybrid MaterialKCS-2 Having Amphiphilic Nano-Space1.はじめにゼオライトは規則的に並んだ1 nm程度の細孔を有する無機のナノ多孔体であり,吸着剤や触媒などの多様な用途をもち,さまざまな産業分野で基幹素材となっている.一方,Metal organic framework(MOF)やPorouscoordination polymer(PCP)などの有機(金属)系のナノ多孔体では,膨大な有機分子設計のノウハウを活かして,ゼオライトを遙かに超える大細孔を有する物質が次々生み出され,スポンジ結晶やガスストレージなど新しい応用研究が展開されている.1),2)近年注目されている結晶3),4性の有機・無機ハイブリッド多孔体)はこれら無機系および有機系多孔体の特徴を併せもち,有機基を含む骨格をゼオライトには不向きな化学吸着場や化学反応場として利用でき,有機系多孔体に比べ熱的安定性に優れるといったメリットがある.また合成スキームに分子工学的な観点を導入できるので,用途に適した細孔構造の設計や化学的性質の付与なども期待される.われわれ図1KCS-2の(A)[001]および(B)[110]方向からみた結晶構造モデル.水素原子は無視してある.(CrystalstructuremodelofKCS-2viewedalong(A)[001]and(B)[110]directions.)日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)は,さまざまな有機シランをSi源に用い,シリカを主成分とする新しい規則性多孔体の探索を行っており,その過程で架橋型有機シランを用いて,両親媒性を示す新しい有機・無機ハイブリッド多孔体KCS-2の開発に成功した.5),6)本稿ではそのKCS-2の結晶構造と特徴について概説する.2.KCS-2の結晶構造解析KCS-2は,2つのSi原子をフェニレン基で架橋した構造をもつ1,4-bis(triethoxysilyl)benzene(BTEB)と正四面体構造をもつtetraethylorthosilicate(TEOS)の2種類の有機シランとアルミナ,NaOHを主原料に用い,100℃の水熱反応により合成される.得られた試料について,粉末X線回折(PXRD)と固体NMRを相補的に用いて構造解析を行った.まず13 Cおよび29 Si MAS NMRスペクトルから,R-SiO 3(T 3ケイ素種)およびO 2Si(OH)2(Q 2ケイ素種)で表される局所構造を観測し,またフェニレン基が開裂せず残っていることを確認した.観測された2種類のケイ素種は,用いたBTEBとTEOSに由来するものと考えられる.次にPXRDデータ(Cu Kα1)から,格子定数はa=1.41000(2)nm, c=1.46053(3)nmの六方晶系で,空間群はP6/mと推定された.ハイブリッドパターン7分解)により観測積分強度を抽出し直接法解析を行ったところ,図1(A)に見られるような酸素12員環の孔をもつSi, Al, O原子からなる層状部位が,c軸に沿って2つ(L1,L2と記す)見つかった(図1(B)).またL1とL2の繰り返しの積み重ねでできる2つの層間の有効距離が異なっていた(約0.60 nmと0.67 nm).直接法ではこれ以上の情報は得られなかったが,ここで固体NMR測定から得た情報がヒントとなった.つまり広い層間にはフェニレン基が,狭い層間にはQ 2ケイ素種がそれぞれ隣り合うL1とL2を繋ぐピラーとして存在していると推定した.その予測は正しく,結果として図1で示すようなフェニレン基が骨格の一部になって多孔体構造を形成していることが判明した.骨格のSiとAl原子は交互に位置し,c軸に沿って有225