ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

日本結晶学会誌60,223-224(2018)最近の研究動向ICCC2018に見られる錯体化学における最近の研究動向日本大学文理学部尾関智二Tomoji OZEKI: Recent Trends in Coordination Chemistry Showcased at ICCC2018Werner型錯体の構造決定1)に始まり,錯体中のd電子2密度の測定)など,錯体化学は結晶学に重要な研究素材を提供し,結晶学は錯体化学に大きな影響を及ぼしてきた.そのような歴史を振り返るまでもなく,錯体化学は結晶学の観点から見ても興味深い研究対象を数多く抱えている.2018年7月30日から8月4日にかけて,仙台国際センターにて第43回国際錯体会議(43rd InternationalConference on Coordination Chemistry, ICCC2018)が開催された.3)ICCCは錯体化学分野における最大規模の国際学会であり,この分野における最近の研究の動向を示す格好のショーケースであるため,この場を借りて紹介する.ICCCは2年に一度開催されており,わが国で開催されるのは,1967年の東京および日光,1994年の京都に引き続き,3回目となる.実行委員長の山下正廣教授(東北大学)によると,52の国・地域から2552名(うち,国外から1510名)の参加者を数えたとのことである.これはまさに,3年ごとに開催されるIUCr Congressが,1972年の京都に続き2008年に大阪で開催され,66の国・地域から2617名(うち,国外から1648名)を集めたこととほぼ同程度の数字となっている.IUCr Congressと同規模ではあるが,Scientific Programの作り方はかなり異なっている.IUCr Congressにおいては,IUCrの各Committeeからの提案に基づき,国際プログラム委員会(IPC)がMicrosymposia(MS)のテーマを決定するという方法をとっている.それに対し,ICCC2018ではプログラム委員会が決定するのはSpecial LectureおよびPlenary Lectureまでで,各session(IUCr CongressにおけるMSに相当する)は,広く世界中から一般公募された.Sessionの議題および講演者の選定はもとより,(上限はあるものの)その長さもsession提案者に委ねられた.したがって,sessionの内容および長さは,現在のこの分野での研究動向をかなりの精度で反映していると考えられる.なお,化学分野で最大規模の会議である環太平洋国際化学会議(Pacifichem)も同じような方式をとっている.Sessionの構成を紹介する前に,会議の全容を簡単に紹介しよう.6日間の会期は初日夕刻からのオープニングセレモニーに続く藤嶋昭教授の特別講演“TiO 2日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)Photocatalysis to contribute comfortable atmosphere”で始まり,途中半日のExcursionをはさみ,最終日昼からのJean-Pierre Sauvage教授(2016年ノーベル化学賞受賞者)の特別講演“From Interlocked and Knotted Rings toMolecular Machines”およびクロージングセレモニーで幕を閉じた.その間,8件のPlenary Lectureおよび8回分の半日の口頭発表のための時間帯,そして夕刻に3回のポスターセッションが設けられた.Plenary Lectureの講演者および講演タイトルは以下のように,合成から反応,物性,デバイス化,そして量子化学計算と,バランスの取れた構成であった.・Yi Lu(University of Illinois at Urbana-Champaign),“Designing Artificial Metalloenzymes that Rival NativeEnzymes through Tuning of the Secondary CoordinationSpheres”・Lee Cronin(University of Glasgow),“Programming theSynthesis and Self-Assembly of Supermolecular InorganicClusterswithAlgorithms”・Gary Brudvig(Yale University),“Molecular Catalysts forWater Oxidation”・Hideo Hosono(Tokyo Institute of Technology),“10thanniversary of Iron-based High Tc Superconductors:discovery and progress”・Roland A. Fischer(Technical University Munich),“Integration of Metal-Organic Frameworks to Devices”・Shie-Ming Peng(National Taiwan University),“Molecular Metal Wires From Homonuclear Metal StringComplexes to Heteronuclear Metal String Complexes”・James Mayer(Yale University),“Proton-coupled electrontransfer in O 2 electrocatalysis and nanocrystal reactivity”・Mario Ruben(KIT, Universite de Strasbourg),“QuantumComputing with Metal Complexes”錯体化学の各分野から提案されたSessionは,半日のものから,2日半に及ぶものまで,およそ60件開かれた.誌面の制限によりすべてのタイトルをここで紹介することができないため,タイトルのみから筆者が独断で分類してみた.錯体が古くから触媒として広く活用されてきた歴史を223