ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

ページ
56/78

このページは 日本結晶学会誌Vol60No5-6 の電子ブックに掲載されている56ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

クリスタリットクライオ電顕単粒子解析法Single Particle Analysis withCryo-electron Microscopy電子顕微鏡を用いた三次元構造解析法の1つ.試料溶液を急速に冷却することで非晶質の氷中に標的分子が分散した状態を作り,電子線損傷を軽減するため液体窒素温度以下で観察する.さまざまな方向を向いた多数の粒子を撮影し,計算機で方位を推定して平均化することで,立体構造を再構成する.結晶回折法と違って結晶が不要であることが最大の利点である.試料の構造や組成が不均一であっても,計算機上で分類することで構造解析できる場合がある.このため,膜タンパク質や巨大分子複合体の構造生物学に大きく貢献している.(MRC分子生物学研究所中根崇智)クライオ電顕の分解能Resolution of Cryo-electron Microscopyクライオ電顕を用いる構造解析のうち,電子線回折法の分解能はX線回折法と同様の基準(CC1/2などの統計値や対精密化など)によって決定できる.一方,単粒子解析法で得られる立体構造の分解能は,フーリエ殻相関Fourier Shell Correlation(FSC)が0.143となる分解能として定義することが多い.ここで言うFSCとは,粒子を無作為に二群に分けてそれぞれを独立して解析し,得られた2つのマップの逆空間での相関係数を分解能ごとに計算したものである.これらの分解能はマップ全体についての指標である.しかし,構造や組成の不均一性がある領域では平均化にあたってブレが生じるため,マップ全体が同じ鮮鋭さをもつわけではない.単粒子解析法の構造を解釈・評価する際は,局所的な分解能にも気を配る必要がある.(MRC分子生物学研究所中根崇智)核磁気共鳴法Nuclear Magnetic Resonance, NMR核スピン量子数I(≠0)をもつ原子における,磁場中でのゼーマン効果により分裂した核スピンのエネルギー準位間の遷移に相当する電磁波(ラジオ波)の共鳴吸収を利用した計測手法.試料中の各原子の磁気的環境の違いにより,原子および周辺の局所的情報が得られることから,有機化合物の同定や構造決定に不可欠となっている.また無機固体の構造解析や,分子の運動や拡散などの局所的な動力学の研究にも有益である.現在では,静磁場中の試料にパルス磁場を与え,応答を計測するフーリエ変換法(1991年ノーベル賞受賞)が主流であり,目的に応じたさまざまな種類のパルス系列と計測手法がある.縦緩和時間(スピン-格子緩和時間)T1,横緩和時間(スピン-スピン緩和時間)T2は,適切な計測条件の決定のほか,動力学研究において重要なパラメーターとなる.パルス磁場勾配(pulsed filed gradient, PFG)の機能を備えた装置では,拡散計測用のパルス系列を用いることで,対象とする化学種の拡散定数を計測できる.固体を計測する場合は,方向依存性をもつ相互作用の効果により計測信号の線幅が広がることが一般に問題となるが,試料容器を磁場方向に対し54.7度傾斜した軸で高速回転させるマジック角回転(magic angle spinning, MAS)により,信号の高分解能化がなされる.(九州大学林克郎)反応活性点Active Sites触媒化学分野の用語で,特定の反応を起こす固体触媒表面の吸着点のこと.単に「活性点」とも呼ばれる.金属に代表される固体触媒においては,バルク内部の金属原子は周辺原子に囲まれて化学結合を形成している一方で,表面の金属原子は結合を形成している周辺原子が少ない.すなわち配位不飽和な状況にある.多くの場合,このような表面の配位不飽和サイトにある金属原子が,1触媒反応活性を示す活性点として働く.詳細は成書)を参照されたい.活性点の概念は分子触媒にも拡張でき,例えば酵素などの生体触媒中において,反応基質が結合した後に触媒作用を引き起こす部位を表す.1)「触媒・光触媒の科学入門」,講談社サイエンティフィク.(東京工業大学理学院前田和彦)共ドーピングCo-Doping半導体に少量の異元素をドーピングする際,複数の元素を同時にドーピングすること.半導体光触媒の分野でしばしばとられる手法である.半導体光触媒への異元1素ドープは,ワイドギャップ半導体の可視光応答化)や2キャリア濃度の制御)を目的として行われる.共ドーピングは前者において効果的な方法である.例えば,TiO 2(吸収端:約400 nm)に窒素をドーピングすると,500 nm程度までの可視光を吸収できるようになる.しかし,2価の酸化物イオンを3価の窒化物イオンで置換する結果と272日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)