ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

複合アニオン化合物の光触媒機能高くないが,今後光触媒調製や反応条件の最適化を進めることで,従来型の光触媒を凌駕する新たなドープ型光触媒の創出が期待される.5.可視光応答型酸フッ化物光触媒上記のとおり,複合アニオン光触媒の可視光応答性は,価電子帯O-2p軌道の上に電気陰性度が酸素よりも小さいアニオン種由来の軌道を新たに導入することで,バンドギャップを縮小することによりもたらされる.そのため複合アニオン光触媒のほとんどは,酸窒化物,酸硫化物,酸ハロゲン化物(Cl,Br,I)に限られていた.このような状況でわれわれは,パイロクロア構造を有するPb-Ti系の酸フッ化物Pb 2Ti 2O 5.4F 1.2(図9)が可視光応答可能な狭いバンドギャップを特異的に有し,安定な可視光応答型光触媒となることを明らかとした.21)Pb 2Ti 2O 5.4F 1.2は,PbO 2,PbF 2,TiO 2を原料とした固相Pb 2Ti 2O 5.4F 1.2を用いて光触媒反応を行ったところ,可視光に応答して水素が安定に生成した(図11).照射波長を長波長化させることで水素生成活性は低下し,480 nm以上の光照射では活性はほとんどなくなった.本結果は,Pb 2Ti 2O 5.4F 1.2のバンドギャップ励起により反応が進行していることを示している.また,光照射後の試料の構造をXRD,SEM/EDS測定により調べた結果,結晶構造およびPb 2Ti 2O 5.4F 1.2中の元素比の変化はほぼ観測されず,安定な光触媒であることがわかった.さらにPb 2Ti 2O 5.4F 1.2にRuO 2を担持することで,Ag+を電子受容剤とする水の酸化による酸素生成にも活性となることを確かめた.このようにわれわれは,酸フッ化物半導体も酸窒化物などと同様に可視光応答型光触媒となることをはじめて明らかとした.Pb 2Ti 2O 5.4F 1.2の可視光応答性の起源を明らかにするため,第一原理計算によりバンド構造を調べ法により得られる.22)図10Aに示すように,Pb 2Ti 2O 5.4F 1.2は500 nm付近に鋭い吸収端をもち,そのバンドギャップは2.4 eVと見積もられた.また,電気化学測定の結果からPb 2Ti 2O 5.4F 1.2が水の酸化還元,およびCO 2還元に適したバンド端ポテンシャルを有していることもわかった(図10B).図9Pb 2Ti 2O 5.4F 1.2の結晶構造.(Crystal structure ofPb 2Ti 2O 5.4F 1.2.)図11 Pt助触媒担持Pb 2Ti 2O 5.4F 1.2を用いた可視光照射下での水素生成反応.光触媒:200 mg,反応溶液:アセトニトリル/トリエタノールアミン/水混合溶液.(Hydrogen evolution reaction using PtloadedPb 2Ti 2O 5.4F 1.2(200 mg)from a mixed solutionof acetonitrile, triethanolamine and water undervisible light.)文献21)より転載. Copyright 2018American Chemical Society.図10Pb2Ti2O5.4F1.2の(A)紫外可視拡散反射スペクトルと(B)バンド端ポテンシャル.(UV-visible diffusereflectance spectrum and band-edge potentials ofPb 2Ti 2O 5.4F 1.2.)文献21)より転載.Copyright 2018American Chemical Society.日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)図12Pb2Ti2O5.4F1.2の模式的なバンド構造図とRevisedlonepair(RLP)modelの概念図.(Schematic illustrationsof band structure of Pb 2Ti 2O 5.4F 1.2 and revised lone pairmodel.)265