ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

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概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

前田和彦図7RuO 2/TiO 2:Ta,Nをアノードとした光電気化学的水分解とCO 2固定化.(Photoelectrochemical overall water splittingand CO 2 fixation using RuO 2/TiO 2:Ta,N as an anode.)文献17)より転載. Copyright Wiley-VCH Verlag GmbH & Co.KGaA.やGaN:ZnOといった代表的な酸窒化物光触媒でも例外ではなく,水の酸化助触媒を担持しても完全に抑制することは困難である.10)その一方で,RuO 2/TiO 2:Ta,Nを導電性ガラス基板上に固定化して電極とすると,図7に示すように約5時間にわたって安定に酸素を生成して駆動する水の完全分解用の光アノードとして働くことがわかった.17)さらには対極をPt線から分子光カソードとすることで,水の酸化とCO 2の還元も可能となった.酸窒化物系光触媒で深刻な問題となっている光腐食は本系では無縁であり,この特性は水の酸化活性点として働くRuO 2助触媒のその場計測をも可能とした.すなわち,in-situ XAFS測定により,水の光酸化反応中のRuO x助触媒における電荷移動の様子を初めて捉えることに成功した.同様の窒素ドープルチル型TiO 2として,われわれはN/F共ドープTiO 2も開発した.18)この材料は,N単独ドープのものと比べて顕著な可視光吸収をもち,それが主因となって酸素生成反応に高活性を与える.最高活性を与えたものは,コバルト錯体を電子メディエーターとしたZスキーム水分解系の酸素生成光触媒として安定に機能した.しかし,ドープするN/F濃度が高くなると可視光吸収の顕在化にもかかわらず活性は低下した.光触媒活性に関して,TiO 2:Ta,NおよびTiO 2:N,Fに共通する特徴は,Nと対イオンを共ドープしたときに高活性が得られることである.この原因を調べるため,時間分解可視・赤外吸収分光測定を行い,光励起キャリアの挙動をN単独ドープと共ドープの場合とで比較した.図8は,355 nmのレーザーパルス照射により光触媒試料を光励起し,その結果生じる励起キャリアが与える可視・赤外領域の吸収を波数(cm-1)に対して示したものである.TiO 2:Nは20000~3000 cm-1の可視・近赤外領域に顕著な吸収を与えた.この吸収帯は,バンドギャップ内に存在する中間準位に捕捉された電子あるいは正孔に帰図8 TiO 2:NとTiO 2:Ta,Nの過渡吸収スペクトル. 355 nmのレーザーパルスで励起し真空中で測定.(Transientabsorption spectra for TiO 2:N and TiO 2:Ta/N excitedwith 355 nm laser pulses under vacuum.)文献14)より転載. Copyright 2017 Royal Society of Chemistry.属される.19),20)TiO 2:Nにおいては,O2-/N 3-置換によって生じる酸素欠陥が中間準位の起源であると推定される.その一方で,共ドープ体TiO 2:Ta,Nではこのようなトラップキャリアに由来する吸収が弱くなっており,TaとNの共ドープによって欠陥生成を効果的に抑制できたことがわかる.さらには,自由電子あるいは浅い準位にトラップされた電子のシグナル(2,000 cm-1)の経時変化を計測したところ,そのシグナル減衰はTiO 2:Ta,Nにおいてより遅くなった.すなわち,反応活性電子が再結合する頻度はTiO 2:Ta,Nにおいてより低いことが示された.同様の傾向はTiO 2:N,Fにおいても観測され,最高活性を与えた(適度なN/Fドープ濃度の)試料においてトラップキャリアの吸収が最も効果的に抑制されていた.これらの結果から,TiO 2への共ドーピングは光励起キャリアのトラップサイトとして働いて光触媒活性を低減させる欠陥の生成を抑制するために不可欠であると結論できる.現時点でTiO 2:Ta, NやTiO 2:N,Fを酸素生成光触媒とするZスキーム型水分解の絶対的な性能は,太陽光エネルギー変換効率にしてどちらも0.02%と決して264日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)