ブックタイトル日本結晶学会誌Vol60No5-6

ページ
47/78

このページは 日本結晶学会誌Vol60No5-6 の電子ブックに掲載されている47ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

日本結晶学会誌Vol60No5-6

複合アニオン化合物の光触媒機能端位置は窒化していないTiO 2:Taとほぼ同一である一方,価電子帯上端位置は0.6 Vマイナス側に位置していた(図5B).これは酸窒化物に特徴的な挙動であり,導入した窒素の高いポテンシャルエネルギーによって占有バンドの上端位置が押し上げられたためと説明できる.このようにして得たTiO 2:Ta,Nを用いて,Fe 3+またはIO 3-を電子受容剤として含む水溶液からの酸素生成反応を可視光照射下(λ>420 nm)で試みた.表1に示すように,TiO 2:Ta,Nのみでは酸素生成活性が非常に低い一方で,RuO 2ナノ粒子をTiO 2:Ta,N表面に導入すると活性は飛躍的に向上した.ここで,RuO 2ナノ粒子は還元/酸化の両方を促進する助触媒として働く.15)しかし,Nのみを単独でドーピングしたTiO 2を用いた場合,RuO 2担持の有無によらず酸素生成はいっさい確認されなかった.すなわち,高活性光触媒を得るにはTaの共ドーピングが不可欠であることがわかった.最高活性を与えたRuO 2担持TiO 2:Ta,Nを酸素生成光触媒として用いて,水素生成光触媒Ru助触媒担持SrTiO 3:Rh 16)との連結によるZスキーム型水分解を試みた.その結果図6Aに示すように,Fe 3+/Fe 2+を電子伝達剤として用いた系で,水の水素と酸素への完全分解を可視光照射下で達成した.Zスキーム水分解とは,水素生成,酸素生成それぞれに活性な2種の異なる光触媒を用いて,両者の間の電子移動を可逆な電子メディエーターに担わせ水の完全分解を行う手法である.水素生成,酸素生成のいずれかに活性を示す光触媒であれば,Zスキーム水分解に適用可能となり,単一の光触媒を用いる場合と比べて材料に求められる制約が格段に小さくなるのが特徴である.さらに本光触媒系は擬似太陽光照射下でも駆動し,このときの水素エネルギーへの太陽光エネルギー変換効率は0.02%となった.水の酸化に高性能な酸窒化物光触媒TaONに同様のRuO 2助触媒修飾を施してZスキーム水分解の活性を調べたところ,図6Bに示すようにRuO 2/TiO 2:Ta,Nの半分以下の活性に留まった.図5Aから明らかなように,TiO 2:Ta,Nの可視光吸収能はTaONと比べて劣っているが,実際の光触媒機能では上回る事実は特筆すべきである.複合アニオン光触媒の最大の問題点は,その光安定性にある.図1に示したように,価電子帯の上端をアニオン種のp軌道が構成する結果,光励起によって生じた正孔による自己酸化を併発しやすくなる.このことはTaON表1TiO 2:Ta,Nを用いた可視光照射下での酸素生成半反応.(Oxygen evolution half reactions using TiO 2:Ta,N undervisible light.)文献14)より転載. Copyright 2017 Royal Society of Chemistry.PhotocatalystElctron acceptorO 2 evolution /μmol h-1TiO 2:Ta,N-IO 3N.D.Fe 3+0.7RuO 2/TiO 2:Ta,N-IO 336.0Fe 3+4.1RuO 2/TiO 2:N-IO 3N.D.Fe 3+N.D.光触媒:50 mg反応溶液:100 mL(1.0 mM)光源:300WXeランプ図6(A)RuO 2/TiO 2:Ta,NとRu/SrTiO 3:Rhを光触媒としたFe 3+/Fe 2+共存下でのZスキーム型可視光水分解.(Visiblelight-drivenZ-schemeoverallwatersplittingusingRuO2/TiO2:Ta,NandRu/SrTiO3:RhphotocatalystsinthepresenceofanFe3+/Fe2+shuttleredoxcouple.)(B)異なる酸素生成光触媒を用いた擬似太陽光照射下でのZスキーム水分解活性.(Comparison of solar-driven Z-scheme water splitting activity using different oxygen-evolution photocatalysts.)文献14)より転載. Copyright 2017 Royal Society of Chemistry.日本結晶学会誌第60巻第5・6号(2018)263